今度のはデジタルで使う薬の量を調整するから大丈夫です、と大口出資者のビル・ゲイツさんなんかは豪語するんですが、根本の考え方や手法は変わってない。農業資材を売る側のグローバル企業はうんと儲かって、地域の生産者の立場は弱いまま。環境コスト、経済コスト、社会コスト、どれをとっても結局、アフリカ側にとっては持続不可能でしょう?
なぜ持続不可能な農業が行なわれるのか。
山極 本当にそう。アフリカ各地を見ていると、まず遺伝子組み換えの作物が援助物資としてタダで入ってくるんですね。でも、それは全部肥料付き。アメリカの大手肥料会社が肥料とセットで遺伝子組み換え作物を提供する。育てた作物から種子を取っても次世代が育たないようになっているから、農民たちは毎年のように多国籍企業から種を買わなくてはならない。
それまでの農業は、その土地の様々な性質を持った種を保存して次世代に伝えていたからこそ、収量こそ劣っても、気候変動や災害などさまざまな状況下でも育つ作物を各地域で作れました。しかし遺伝子組み換えの種は一律ですから、災害や気候変動に弱い。
それなのに毎年、種子会社から、種子も肥料も買わなくてはならず、その負債がどんどん膨らむから、いくら農地の生産力が高くなっても現地の農民たちの収入は上がらないわけです。
堤 全くですね。しかも今回のはデジタル化によるアップデート版で、どの時期にどの種をまき、どの化学肥料や農薬をいつ使うかまで、スマホに指示が来て、種まきから収穫までの全データを少数のアグリビジネスが独占する。その先にあるのは、風を読み、土にふれ、気象条件に合わせて作物を育ててきた農民たちも、コミュニティも必要とされない世界です。
今の、農家がどんどん減っているんだから「スマート農業」にシフトせよという論調には、人と野生動物、自然との関係をどう結ぶかという視点がすっぽり抜け落ちていると思いますね。
そして土壌は死んだ。起きたのは“ミミズの反乱”だった
山極 人と自然との関係が一番あらわれるのが、ある意味土壌ではないでしょうか。最近観た映画ですごく感銘を受けたのが、新海誠監督のアニメーション『すずめの戸締まり』。この映画では、扉の戸締りを怠ると、ミミズが地面からうわぁーっと火山が噴火するように炎の集団のごとく出てきて、それが地震を起こす。まるで、“土壌の反乱”なんです。
地球上で一番バイオマスの多い生き物はミミズですが、ミミズが土壌の粒子をつくり、そこに雨や空気を入れて、土を豊かにして植物を生やしてる。だから、畑を作るにも植物が生えるにも、動物の様々な糞を分解して植物の栄養になるよう、ミミズが管理しているんですね。