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 そうした捜査の過程で「引致した嫌疑者は既に十余名に達した」(3月26日付時事新報)が「大久保の色魔は何者ぞ」(同日付萬朝報)、「惨殺者は誰れ」(3月28日付読売)、「犯人はまだ知れぬ」(3月29日付読売)という展開に。

 時事新報は3月29日付で「真っ先に犯人を探知、もしくは逮捕した者に金時計を贈る」という「大久保惨事犯人 探偵大懸賞」の広告を掲載した。

捜査の難航に時事新報は金時計の懸賞を出した

 その結果は4月16日付同紙に、「犯人」逮捕に功があった巡査4人に銀時計4個が贈られている。さらに事態は「暗中模索」(3月30日付報知朝刊)、「事件は迷宮に入れり」(4月1日付報知朝刊)に。

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事件解決の手掛かりはなく、新聞は「暗中模索」などと書いた(報知)

批判は警察に向かい…

 一方で事件の影響が無視できなくなってきたことが報知の同じ記事で分かる。

「日没後は婦人の通行者はまれで、銭湯へは近所で申し合わせ、5~6人ずつ団体をつくって入浴。よくよくの急用でなければ夜間は外出しないよう戒めているとのこと」

 刑事・巡査が日夜の別なく全村に入り込み、かえって女性が不審者ではないかと通報する騒ぎも。ついには……。

「近来、大久保を引き払って(東京)市内に居を移す者多く、借家の契約をしたものが続々破談になるような始末。犯人が捕まらない場合は、ようやく発展しようとしてきた大久保も元の寂しさに戻るかも分からないと地主は心を痛めている」

 当然、批判の対象は警察の捜査に向かう。4月1日付時事新報は、東京府会議員有志が「不安の状態を継続させているのは警察の緩慢によるもの」として警視庁に申し入れをしたと報じた。

 新聞も同様で、3月31日付報知朝刊「論説」はこう主張した。

「警察の威信 大久保の惨事はその犯人いまだ捕縛されず、人にいよいよ警察の威信を疑わせるに至った。それにしても、都市の膨張は各種階級の人間の流入を招き、風儀上非常に恐ろしい危険分子を増加させ、一層の警察力の発揮を求めつつある。いまの都市は人間の都市でなく罪悪の都市。厳しい取り締まりを求める」

「拙劣なる探偵術」などと警察の捜査批判も(都新聞)

 さらに激しかったのは3月2日発行3日付都新聞の「拙劣なる探偵術」。「戸山が原の浮浪者」や「堕落学生」を片っ端から調べたが手ごたえがないことから「最も初歩的で拙劣な手段である釣り出しを行うに至った」と捜査員の人海戦術とおとり捜査を批判した。対して4月4日付萬朝報1面「言論」は警察に「一層の奮励を望む」と激励した。