「17歳の娘はクラスメートに殺された」父は加害者を赦すことができるのか…7年後に明らかになった“動機にまつわる新事実”とは

「大切な人に先立たれる悲しみは誰もが必ず経験することです。でも、それがもし、何者かに殺されるという形でもたらされたら、人は、その加害者を赦すことができるのか。あるいは、怒りや復讐心は、いつまで続くのか。この関心が、本作のベースです」

　インド出身で日本在住の映画監督、アンシュル・チョウハンさんが日本で撮影した3作目の長編映画『赦し』。7年前、高校生だった17歳の娘をクラスメートに殺された元夫婦と加害者女性が、再審公判で対峙する様を描いた法廷劇だ。

　愛娘を失った悲しみから生きる気力を無くした主人公・樋口克（尚玄）の元に裁判所から通知が届く。加害者の福田夏奈（松浦りょう）は懲役20年の刑に服しているが、犯行時未成年だったことが考慮されず、重すぎる刑が科されているとして再審の開始が決定したのだ。克は再燃する怒りとともに証言台に立つが、再婚して新たな人生を歩み始めている元妻の澄子（MEGUMI）は戸惑いを隠せない。やがて、事件の動機にまつわる新事実も明らかになり――。

「私自身も体験したことを、重要な要素として取り入れました。私は、人間は多面的な存在だと考えています。その意味でも大切な部分です」

　夏奈による思わぬ告白に、激しく動揺する克。果たして彼は、娘を殺した相手を“赦す”ことができるのか？

「これが本作の最大のテーマですし、多くの人にとっても気になる点だと思います。ただ、私は、誰が悪いとか正しいとか、白黒はっきりさせるような描き方はしていません。ご覧になった方々が、それぞれの解釈をして、それぞれのメッセージを持ち帰っていただけたらと思っています」

　俳優たちの、静かながらも迫真の演技も見応えがある。

「常々、日本のドラマや映画の演技はちょっとオーバーだと思っていて。実際、僕の周りにはあんなふうに話す日本人はいないし、日本の映画に出てきがちな海に向かって叫ぶ少年少女も見たことがありません（笑）。だから今回も、自然な演技を、と彼らにはリクエストしました」

　撮影前には、俳優たちと徹底的に話し合い、観察する。

「すると、演技の中ににじむ嘘っぽさが見抜けるようになってくる。そのうえで、心の奥のほうで蠢いている感情を引っぱり出すんです。時に衝突もありますが、この作業を、私は、とても面白いと感じているんです」

『NARUTO-ナルト-』などのアニメが好きで、大学で日本の歴史も学んだチョウハンさんは、2011年にCGアニメーターとして来日。自分の作品を作ってみたいと、16年から実写映画を作り始め、2作目の長編『コントラ』（19）が国内外で数々の賞を獲得した。なぜ日本で映画作りを続けるのか。

「たまたま日本に住んでいるから、日本で撮っているだけですよ。もし別の機会があったら、いつでも挑戦してみたいと思っています」

　いくつかある次回作の企画の一つは、ラスベガスでの撮影を予定。自身初のハリウッド映画になる。