痺れを切らせた島田が「バカ野郎、やるって言ったらやるんだよ」と怒鳴ると、彼
女は「嫌だ」と喚き散らした。最後は島田の、「もし、これを出して売れないっていうなら、俺が責任取る」との懸命の訴えで、何とか、翌週のレコーディングの約束だけは取り付けたが、成功するか否かは、一か八かの賭けだった。
レコーディング当日、3テイクが限界だった
レコーディング当日、島田はスタッフに「テストからテープを回してくれ」と指示を出した。
「本来なら、20回、30回は唄うのですが、今回は3回が限度だろうと踏んでいました。それを上手く編集するしかない。当日、私は強気の姿勢を崩さず、明菜にも『やる気ないんだったら帰るか』という話までしました。テストで唄わせた後、『ちっとも伝わってこないんだよな』と挑発すると、彼女は怒り心頭の様子で、それが逆に歌の迫力に繋がった。そこから少し粘って3テイクほどで『はい、終わり。ご苦労さん』とレコーディングを切り上げました」
明菜は不服そうな顔でスタジオを後にした。完成したレコードには、撮影でグアムに行った際、プールサイドで疲れ果て、不貞腐れている明菜の写真が採用された。もちろん本人が望んだ写真ではなかった。
「少女A」は、“難産”の末に世に送り出されたが、挑発的な唄い方も、睨みつけるようなレコードジャケットも、結果的に明菜は、大人たちの狙い通りに、“掌の上で踊らされた”に過ぎなかった。
しかし、この曲がチャートを駆け上がっていくと、明菜は、その掌から軽々と飛び出した。発売から約2カ月が過ぎた9月16日、当時絶大な人気を誇っていたTBSの「ザ・ベストテン」で9位にランクインを果たした。明菜が初出演すると、一夜にして彼女はトップアイドルの仲間入りを果たしていく。
4日後、今度はフジテレビの看板番組「夜のヒットスタジオ」の生放送にも初出演する。この2つの音楽番組が、明菜をアイドルの域を超えた歌い手に飛躍させていくことになる。
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