「これは完全な『人災』であって『天災』とはいえまい」
この日の読売の投書欄「気流」には「これは完全な『人災』であって『天災』とはいえまい」というデザイナーの意見が。道新は1面トップ「この責任はどこが負う」の見出しで、国鉄と気象台が「互に責任を転嫁」していると指摘した。さらに各紙は社説などでも事故を取り上げた。
朝日の社説は「何か別に出港を急がせるものがあったのではないか」と疑問を呈し、毎日は出港判断の是非と台風観測の欠陥を衝いた。読売は台風を軽視した中央気象台と国鉄の責任を追及。道新は、岩内の大火と併せて、「防げない事故ではなかった」として、慎重さと細心の注意が欠けていたと強調。まだ情報が錯綜する中でも、事故の焦点が強風下に出港した判断と台風の観測態勢、そして連絡船の構造と国鉄の安全態勢にあることが浮き彫りになってきた。
「暗黒の海の“地獄船”」
犠牲になった乗客、九死に一生を得た乗客らのエピソードや街に流れるデマまでが紙面に見られるようになった。9月28日付朝日朝刊社会面トップには「悲惨!最後の一瞬 下船希望も拒まる」という、救助された青森県の男性(28)の話が。
結婚して8カ月の妻と北海道での行商の帰りに洞爺丸に乗ったが、暴風でどうしようもなく下船しようとした。「ところが船ではタラップを降ろしてくれず、船員は『こんな台風は大丈夫だから』とガンとして受け付けてくれなかった」。三等船室に海水が流れ落ちてきて、妻を抱きしめていたが、大きなうねりに引き離され、自分はブイにつかまって浜に打ち上げられたが、妻は行方不明のまま。
同様の証言はほかにも。朝日の同じ紙面には「老父も後を追う」の記事。遭難した東京・中野の店員の妻の父(56)は9月27日朝、「悲しい知らせを受けて、驚きの余りその場に卒倒。余りにも大きなショックのために同日午後5時ごろ、息を引き取った」。同じ日付の毎日は生存者の証言を集めて社会面トップに。見出しは「あゝ(あ)暗黒の海の“地獄船”」。
「“死人に口なし”の船長に全てをかぶせようと…」
9月28日付各紙夕刊には、政府が同日の閣議で事故の対策を協議したことが載っている。衆院運輸委員会は同日午前、長崎惣之助・国鉄総裁(当時)らを呼んで説明を聞き、責任を追及。一方、遺体捜索は困難を極め、9月28日からは潜水夫を入れて作業を開始した。
また北海道警、函館地検も捜査に乗り出したことが伝えられた。そんな中で9月28日付夕刊読売2面トップ「洞爺丸惨事責任者はだれだ」のリードは、やがて始まる海難審判の成り行きを示していて興味深い。「連絡船運航関係者は『気象台の台風情報が甘かった』と言い、気象台では『いや、予報に誤りはなかった』とやり返し、最後には“死人に口なし”の船長に全てをかぶせようとするなど、責任の所在をめぐって泥仕合が始まっている」
「今後北海道方面の輸送は相当制約をされることになる」
9月29日付朝刊各紙には一斉に「日本国有鉄道 総裁長崎惣之助」名の「謹告」が掲載された。台風15号による被害を述べ「特に洞爺丸の沈没によりまして、不幸にも多数の船客に死亡及び不明の事故を引き起こしましたことは誠に痛惜に堪えません。不幸難に遭われました方に深く哀悼の意をささげますとともに、遭難者ご家族の方々及び国民各位に対し、心から遺憾の意を表する次第であります」などとなっていた。