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「この子、殺してまうかもしれません」止まない夜泣き、心身の限界…“脳性まひ”の1歳息子を育てる母親が抱えていた苦悩

『ピンヒールで車椅子を押す』より #2

2023/09/23
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「昼寝なんかしなくても、亮夏は死にません!!!」

 駆け込んだ翌年、地域の保育園に入園が決まり、亮さんは2歳児クラスから通い出した。

 しかしホッとしたのもつかの間、彼は当初なかなか保育園に慣れることができず、他の子どもたちが、1、2週間で終える通称『慣らし保育』(保育園に慣れるために、一定期間短時間で帰るというもの)を半年経った時点でも彼だけ1人続けていた。

 理由は2つだ。

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 ・なんしかずっと泣いている

 ・昼寝をしない

「今日こそは昼寝して、他の子と一緒に4時まで遊んで帰ってくるんやで」

 そう言い聞かせて送り出すのだが、そんな言葉もむなしく、大体13時ごろには

「お母さん、亮夏くんがお昼寝をしません。迎えに来てください」と保育園から電話がかかってくるのだ。

 そして、突然それはやってきた。私が切れたのだ。

「今日もお昼寝をしないので……」

 そのひまわりのように優しい先生の声を遮って、私は叫んだ。

「昼寝なんかしなくても、亮夏は死にません!!!」

 かの有名なドラマの名台詞「ぼくは死にません」を彷彿とさせたかどうかはわからないが、必死さはおそらく劣るまい、その勢いで叫び、気がつけば電話を切っていた。

 先生、あのときはビックリさせてごめんなさい。でもその後、無事に亮さんも慣らし保育を終え、保育園生活を満喫できるようになっていった。

保育園ママにおすすめされたA医院へ

 亮さんが保育園に通い出したことを機に、風邪もよく引くようになり、保育園ママにどこか近くで良い小児科はないかと尋ねたところ、

「ちょっと癖がある先生で、合わない人は合わないみたいだけど、私は信頼してるで」とおすすめされたのがA医院だった。

 まさかそこで生きる術を1つ身につけられるなんて、そのときは夢にも思わずにいた。

 ある日亮さんが風邪を引いた。早速車で10分ほどの距離にあるA医院に向かった。

 ちなみに亮さんは1人で座る姿勢が保てないので、基本、移動はバギーか車移動になる。

 到着したA医院は、大きめの一軒家を改築したような個人病院だった。初めての病院、初めての先生は緊張する。

「優しい先生やったらいいな」