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未解決事件を追う

「30歳までに少なくとも、500人の女と…」性的暴行の果てに21歳女性を殺害、「ルーシー事件」犯人の“歪んだ欲望”

「30歳までに少なくとも、500人の女と…」性的暴行の果てに21歳女性を殺害、「ルーシー事件」犯人の“歪んだ欲望”

『刑事たちの挽歌〈増補改訂版〉 警視庁捜査一課「ルーシー事件」』

2024/01/08

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会

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「(鎌倉に出かけた)14日の夜に、胃が痛いとカリタが言い出したので医者を呼んだ。2時間も経ってからやって来た医者は、『とにかく眠らせてほしい』と苦痛を訴えるカリタに、5本ぐらいのアンプルを注射した」

怪しい「医者」の存在

 この医者は一体どこの誰なのだろう。同じ日の午後11時頃に織原が内海にかけた電話では、その実在さえ怪しくなってくる。

「例の鎌倉に来てくれた医者なんですけど、朝の6時頃からずっと電話を掛けてですね……」

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 ところが織原は、2時間もかけて診療に来てくれた医者の名前も病院の名称も、まったく覚えていないと言うのだ。

 証拠品として押収されていた手帳やノートにも、医者を呼んだことを示す記述はない。

 これは後の捜査で明らかになってくることだが、カリタを間違いなく診療したと明確に証言する医師たちの中に、織原が電話で鎌倉に呼んだという医者は含まれておらず、捜査員たちが鎌倉市や逗子市など、都合160か所の医療施設に問い合わせても、1992年2月当時に「20歳代白人女性」を往診・診療した医師は発見できなかった。

 それもそのはずで、織原が実際にカリタを連れて行った最初の病院は、東京都武蔵野市吉祥寺の秀島病院だったのだ。

 この病院は、カリタが当時生活していたアパートから車で5分とかからないところにあり、職業別の電話帳を調べれば、簡単に見つけ出すことができたはずだ。

 しかし、カセットテープに録音されていた会話の内容に限って言えば、織原は、サマンサや内海らに対して、「秀島病院へ行く前に、電話で医者を呼んで診療させた」と主張して譲らないのだ。

※写真はイメージです ©iStock.com

「尿は保管されるのか」

 織原は内海との会話で、一つのことにこだわりを見せている。それは、「尿は(秀島病院に)保管されるのか」という点についてだ。

 織原はおそらく、秀島病院に証拠物が残ることを恐れていたのだろう。

 さらに、「平成4年2月28日、金曜日、午後11時50分」の会話で織原は、電話をかけた内海から、カリタの容態がより深刻なものになったという旨の報せを受けた。

「カリタはもう駄目だ。警察にも一度呼ばれました」

「何で警察が出てくるんですか。犯罪とはまったく関係ない……」

 織原の焦りが伝わってきた。

 内海が続ける。

「武蔵野署の松本という係長に電話をしてください」

「武蔵野警察はですね、カリタさんのね、職業はちゃんとみんなわかっているわけですか?」

織原が見せた「自己保身」

 内海は、なぜあなたが病院に顔を出さないのか、警察はその理由を疑っている、と織原に告げた。