父がヴァイオリニストであり、幼少期は比較的裕福な暮らしができていたと振り返る黒柳徹子さん。しかし、8歳で太平洋戦争が始まったことで、生活は次第に困窮していき、自身も栄養失調に苦しむようになる。

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「徹子の部屋」でのタモリさんの一言

 2022年2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まり、「戦争」というものが、すぐそこまで近づいてきていると感じます。この年の12月末かしらね。「徹子の部屋」にタモリさんが出演してくださったの。

黒柳徹子氏 撮影:下村一喜

 覚えてらっしゃる方もいるんじゃないかしら。放送終了間際に、私が「来年はどんな年になりますかね?」と尋ねたところ、タモリさんはしばらくの間考えてから「新しい戦前になるんじゃないですかね」とお答えになったんです。

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 そうよね、やっぱりこの人も、戦争は嫌いだものね、絶対に。「新しい戦前」と彼が言ったのを聞いて、そう思いました。昨今の穏やかではない社会をみて、そう表現したのでしょう。タモリさんはいつも面白いことを言って人を笑わせていますけど、それだけではない人。心の中ではきっと、戦争は絶対にしてはならないと思っていますよ。

 もしあの時、タモリさんに対して私がなにか返すとしたら……「やあねッ」って答えたいわ。新しい戦前――そうよね、「やあねッ」って。その一言だけで、タモリさんには十分伝わるんじゃないかしら。

タモリ氏 ©文藝春秋

 タモリさんが「新しい戦前」と表現した2023年も、8月15日に78回目の終戦の日を迎えます。今年、わたくしの戦争体験を綴った絵本『トットちゃんの15つぶのだいず』(講談社)を監修しました。「今のうちに話しておかなければ」と思っていたことを、素晴らしい絵本でお届けすることができました。

 イラストを担当した松本春野さんは『窓ぎわのトットちゃん』で挿絵をお借りした、いわさきちひろさんのお孫さん。素敵なご縁を感じています。

 絵本のタイトルにもなっている「15つぶのだいず」。これは、小学生だった私が戦時中に与えられた、1日分の食糧でした。