多くの教職員の前で失脚した女帝
「この度は世間をお騒がせしてしまい、大変申し訳なく思い、本日は理事一同のお詫びということで参集いたしました。誠に申し訳ありませんでした」
ステージの上に立った理事長の岩本氏は、一応の謝罪を述べると頭を下げた。一人を除き勢揃いした理事と監事もそれに続く。
8月5日午後6時過ぎ、850人収容の東京女子医大・弥生記念講堂は、集まった教職員でほぼ満席。第三者委員会の調査報告書を受けて、岩本氏ら経営陣の進退に関心が集まっていた。
「厳しい内容でございますが、真摯に受け止めて改善していくことをお約束いたします。しかしながら弁護士に伺いましたところ、(調査報告書には)事実と多少違うところもあるし、このまま全てを(受け入れるのは)女子医大のイメージが非常に悪い。学生や職員のために、内容を一旦検証、精査して、私や理事監事の辞任も含めて検討させていただきたい」
会場がどよめいた。第三者委員会の指摘を受けても岩本氏は何も反省せず、理事長の座に残る意向を示したのである。だが、この発言を受けてすぐにマイクを握った人がいた。
「すみません、理事の石黒からですが、理事長先生がおっしゃった内容は、理事・監事全員の総意ではございません」
続いて立った肥塚直美常務理事(病院長を兼務)は、第三者委員会の調査報告書が公開された翌3日、岩本氏を除き、理事と監事が集まったことを明かした。協議の結果、岩本氏には理事長を辞職してもらうことが妥当、理事たちも経営責任を明確にするため、全員辞職することになったという。
そして、石黒直子理事が岩本氏の発言を改めて否定した。
「調査報告書に更なる検討を立ち上げることは、いたしません。しっかり第三者委員会に検討を行っていただきましたので、これに則って我々はやっていく。ご賛同の理事・監事の先生は、立っていただけますか」
促されて、ステージ上にいた理事と監事の全員が立ち上がった。女子医大を支配してきた岩本氏に、役員たちが反旗を翻した瞬間である。
この時、岩本氏は憮然とした表情を浮かべた。側近中の側近として、これまで最も積極的に岩本氏を擁護してきた石黒理事に裏切られ、命運は尽きた。
たとえ自ら辞任しなくても、女子医大の規約では、役員の過半数の同意で理事長職を解任することは可能なので、岩本氏の失脚はこの時に確定したのである。