「観光に来て」と大手を振って言える状況では…

 組合事務局にはこのところ「泊まれる旅館はありますか」という電話が増えている。「少しでも支援したい」という思いから、日帰り入浴の問い合わせも多い。

日帰り入浴施設「総湯」。屋外の足湯はまだ止まったままだった(和倉温泉)

 ただ、「泊まった時に観光できるところがありますか」という質問もあり、これには答えにくいのが実情だ。担当者は「復旧が進んでいる部分と、逆に酷くなっている部分があります。一度は仮復旧した道路でも、また穴が広がる箇所があったりするのです。状況は日々変わっているので、各地の観光協会に問い合わせて下さいとしか伝えられません」と心苦しそうだった。

 前出の旅館幹部社員も「輪島の朝市通りなど、大切な観光資源が被災してしまいました。確かに来ていただける観光地もあります。その際、被害の現状を見て、防災について考えてもらうきっかけにもできるでしょう。でも、私達でさえ心が折れそうになる現場もあります。まだ避難している被災者もいます。水道が出ない家もあります。家の再建資金に悩んでいる人もいます。『観光に来てください』と大手を振って言える状況ではありません。早く能登全体としての復興を発信していける状態にしていかないと」と力を込める。

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 そして、「旅館は一時的に泊まっていただく施設ですが、米を消費したり、魚を仕入れたり、新聞を取ったりと、経済波及効果が大きい部分があります。一日も早く営業を再開して、能登活性化の役に立ちたい」と話していた。

ミュージアム、道の駅、「花嫁のれん館」の観光が可能

 ところで、現在の七尾市内ではどのような観光ができるのだろうか。市役所で観光行政を担当する交流推進課に聞いた。

「のと里山里海ミュージアムがオープンしていますし、土日祝日であれば港にある道の駅『能登食祭市場』も開いています。まちなかでは花嫁のれん館も開館しています」と担当職員が次々に挙げる。見て回れるところはかなりありそうだ。

「花嫁のれん」は、結婚する女性の実家の家紋を染め抜いた華やかなのれんだ。旧加賀藩の領内で幕末から明治にかけて、嫁入り道具に加わった。だが、婚礼以外ではなかなか出番がない。そこで古い店舗が建ち並ぶ七尾の中心街「一本杉通り」で、商店の女将達がまち起こしの一環として展示を始め、これが発展して「花嫁のれん館」が建設された。

営業している花嫁のれん館(七尾市)

 残念なことに、一本杉通りでは国登録有形文化財の明治建築が倒壊するなど被害が激しく、情緒ある面影はかなり失われた。

 被災後の通りを歩くと、痛々しい。ほうぼうで工事が行われていて、大工の一人は「さあ、いつまでかかるんでしょうね」と汗まみれで作業をしていた。