地震に耐えた町屋造りの御菓子処「花月」

 営業している店もあった。1896(明治29)年創業の御菓子処「花月」。女将の通(とおり)文子さんに「何が名物ですか」と尋ねると「松林(しょうりん)」を勧められた。桃山時代の絵師・長谷川等伯の代表作『松林図屏風』(国宝)に着想を得た菓子だ。七尾出身の等伯は、上京して千利休や豊臣秀吉に気に入られ、狩野永徳としのぎを削るなどして活躍した。「松林」は寒天に大納言小豆がぎっしり詰まっていて、形が松の木の皮をほうふつとさせる。

地震に耐えた御菓子処「花月」(一本杉通り)

「この店は町屋造りになっています。どうぞご覧ください」。そう言われて、見学させてもらった。

「釘ひとつ使っていない建築物ですが、能登半島地震に耐えたのです」と、通さんが解説する。

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 能登半島地震と呼ばれる災害は今回を含めて2度あり、前回は2007年3月25日に発生した。この時、七尾市では最大震度6強を計測したが、それでも損壊しなかった店舗だ。花月ではその後、店舗を曳家(ひきや、解体せずに建物を移動させること)で道路から後退させ、併せて基礎工事をしっかり行ったのだという。今回はこれが功を奏したのだろうか。

御菓子処「花月」の趣のある店内(一本杉通り)

 通さんには嬉しい出来事があった。「地震の発生から半年が経過した6月30日、初めて40人の団体が来てくれました。町屋造りのお店で抹茶やお菓子を味わっていただいたのです」。観光は少しずつであるが、動き始めている。

「頑張っている七尾市を見に来てほしい」

 七尾市の観光担当者は「被災当初は被害が酷くて、とても『来てください』とは言えませんでした。でも、飲食店関係はほぼ営業を再開したので、能登の海の幸を寿司などで楽しんでもらえます」と話す。

 そして「うまく言えないのですけれど」と言葉を選びながら、「地震の爪痕が残る市内でも、復興の足音が聞こえつつあります。一本杉通りでは、取り壊し中の店舗がある一方で、頑張って営業している店舗もあるのです。仮設店舗(飲食店や美容院など4店)もオープンしました。全国屈指の規模を誇る山城の七尾城跡は、石垣などが崩落して行けないエリアもありますが、被災状況を含めて見てもらえます。もうちょっと待っててください。必ず復興します。頑張ってます。そんな七尾市を見に来てほしいなと思います」。切々と訴えた。

「負けないぞ!!七尾!!」(能登食祭市場)

撮影=葉上太郎