「ところが、能登半島地震で和倉全体の護岸がやられてしまいました。護岸を修復しないと、旅館の方に海水が入ってきてしまいます。現在は土嚢(どのう)を積んでもらっているのですが、とにかく海水の浸入を防がないと、建物の修復工事に入れないのです」と説明する。
悪いことに、一帯の岸壁が沈下してしまった。
民有護岸は所有者が直すのが原則
和倉温泉観光協会・和倉温泉旅館協同組合の事務局は「被害が酷い旅館だと、海際の露天風呂が30cmぐらい下がってしまい、海水が入ってくるそうです。海水が建物の基礎部分を浸すと問題が大きくなります」と語る。
だからこそ護岸を直さなければいけないのだが、簡単にはいかない。場所によって石川県、七尾市、旅館と管理が異なり、民有護岸は所有者が直すのが原則になっている。
これについては、発災から半年の節目に現地を訪れた岸田文雄首相が「民有護岸についても、地方公共団体に所有権を移管していただいて再整備をするなど、政府として復興のための基盤づくりを加速していきたい」と述べた。
「総理に来ていただいて心強い」という声はあるものの、被災から半年も経過してからの発言である。
また、護岸工事は海岸の旅館を解体して再建する場合と、修繕にとどめる場合では工法が違う。気候変動を見据えた護岸のかさ上げも今後の課題で、複雑な要素が絡む。
温泉街全体の復興目標は2040年
こうした事情も手伝って「営業再開には少なくとも1年以上かかる」と話す旅館もある。
組合事務局は「新型コロナウイルス感染症の影響で経営に苦労してきたので、すぐに動けるかというとなかなか難しい旅館もあります。ただ、21軒の旅館全てが復興に向けて進んでいこうと考えています」と、温泉街の意気込みを代弁する。
しかし、2024年8月下旬時点で、営業再開にこぎつけた旅館はたったの3軒。通常営業できる状態ではないので復旧・復興関係者に限って受け入れている旅館が7軒。計10軒が何らかの形で宿を開けている。残り11軒は休業中だ。
温泉街の関係者で作る「和倉温泉創造的復興ビジョン策定会議」がまとめた「ビジョン」によると、温泉街全体の復興目標は2040年。旅館はその前に順次営業を再開するとしても、被災から16年かかるという目算だ。