日本から“ケイパーもの”と呼ばれる犯罪者集団を主人公としたジャンルの新たな傑作が誕生した。今、あちこちで「抜群に面白い」と評判を呼んでいる大根仁監督・脚本の配信ドラマ『地面師たち』(ネットフリックスで配信中)だ。

「地面師」という耳慣れない言葉は、2017年に大手デベロッパー(土地開発事業者)が約55億円もの土地購入代金を騙し取られた事件で盛んに報じられた。彼らは他人の土地の所有者になりすまし売却を持ちかけ、偽造書類を使って多額の金を騙し取る不動産詐欺犯罪のプロ集団だ。当時、

「よりにもよって大手上場企業がなぜ、こんな詐欺に?」

ADVERTISEMENT

 と誰もが耳を疑った。だが、その手口は緻密、且つ巧妙で指示役、交渉役、情報屋、法律屋、ニンベン師(偽造書類作成者)、手配師(なりすまし役のキャスティング係)など複数の専門家がチームとして動き、プロがプロを欺く高度な詐欺である。

©佐々木健一

 物語は印象的なシーンから始まる。地面師のリーダー、豊川悦司演じる得体の知れない男、ハリソン山中は北米の森で鹿狩りの最中に巨大な熊と遭遇し、見事ライフルで熊を仕留める。彼はこの逸話を武勇伝のように語り、綾野剛演じる男を地面師の道へ勧誘するのだ。だが、この場面に登場する熊のCGがなんとも微妙なのである。リアルと感じるか、フェイク(偽物)と感じるか、印象は人それぞれだろう。否、そもそもこの男の話はどこまで本当なのか。本作は冒頭から虚実の狭間へと観客を導く。ハリソンは言う。

「肝心なのは似ている似ていないよりも、リアリティです」

 普通は別人が土地所有者になりすましてもすぐに見抜かれると考えるだろう。だが、ハリソンは重要なのは本物っぽく感じられる“現実感”だと喝破する。映画やドラマといったエンタメもそうだ。虚構の物語に観客はリアリティを感じ、感情移入する。人をその気にさせ、人を騙す。その絶大な威力に慄く一作だ。

INFORMATIONアイコン