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汚職事件のことです。汚職の「汚」はさんずい偏ですよね。それで「サンズイ」って言うんですが、とにかく全国の警察の評価は「サンズイ」ありきなんです。たとえば、県知事や市長といった政治家たちの汚職を検挙することも大事ですし、公務員の贈収賄などを何件上げることができたかといったことも全国的な評価になる。

私は初めて出席したその幹部会議で手を挙げて、「サンズイがないんだったら、警察の裏金やらんですか? コレ、大きいですよ」って言ったんです。そうしたら、署長以下、全体がしらーっとなって、すぐに、「今日の会議は終わり。解散」となりました。

ニセ領収書を書かないことへの仕打ち

――その後、どうなったのですか。

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即、異動です。田舎の駐在所にね。ちょうどそのころ女房が妊娠中で、間もなく出産という時期だったにもかかわらず僻地へ異動させるんですから、酷いでしょう。その後、16年間で7所轄、計9回にわたって報復ともいえる異動を命じられました。私の次男は、小学2年生の夏休みまでに3回も転校を強いられました。

――ご家族も大変だったでしょうね。

それだけじゃありません、昇進試験にも落とされ続けました。学科試験は好成績でとおっているのに、面接で不合格になるんです。30歳のとき面接から帰ったら、警察幹部には珍しく署員から「人格者」と言われていた副署長から、「君はとおらんぞ」って言うんです。私が「今年3回目ですけん、とおるでしょう。学科試験は今まですべったことないですよ」って返したら、「そんなことは関係ない。お前、書いてなかろうが」って言い出したんですよ。

――ニセ領収書のことですか。

そうです。そしてこうも言われました。「お前一人だけ青信号通らせるわけにはいかんのや。全員がやらんことには。組織やろうが」と。それ以来、私は昇進試験を受けるのをやめました。「手を汚さないととおらんのやったら、来年から受けません」ってね。結局、定年退職まで35年間、階級は巡査部長のままでした。これは日本の警察史上最長で、ギネス記録です。