デイトレーダーとしての収支は黒字で、有料会員からの会費も入ってくる。髙田さんの資産は、最大3億円に達した。順調に見えた「お金持ち」への道はしかし、一気に崩壊する。2008年9月のリーマンショックで資産の9割を喪失したのだ。
茫然自失の髙田さんは、手元に残った1割の資産で、日々を漫然と過ごした。当時の妻からは「アパレルに戻ったら?」と言われたが、その気力も残っていなかった。ただ毎日、韓国ドラマを観続けていた。
1年が経ち、貯金が尽きかけた頃、「もう、ええか」と感じ始めた。うまいメシも食った。高い車にも乗った。あれもした、これもした。これまで、たくさんいい思いをした。頭のなかには、「死」の文字が点滅していた。
人生最後のラーメン
ある日、ついに「もう死のう」と立ち上がった。その時、唐突に思い浮かんだ。
「もう1回、最後に食べに行こう」
最後の晩餐に選んだのは、京都に本店を構える「無鉄砲」のとんこつラーメン。大学生の頃からラーメンの食べ歩きを始めた髙田さんが最も愛したラーメンだった。ひとりで昼時を過ごすデイトレーダーになってからは、年間100杯は食べていた。
「俺の一杯を探す旅」というブログも書いていた。無鉄砲では「麺固め」「こってり」「ねぎ多め」などのオーダーができる。毎回オーダーを変えて、最高の組み合わせを探るという内容だ。あらゆる組み合わせを試して出した結論は、「普通のラーメンが一番」。
人生最後の一杯として足を運んだ無鉄砲大阪店で注文したのも、シンプルなとんこつラーメンだった。
豚骨と水だけで作る、濃厚かつ滋味豊かなスープをすする。ジュレのようなスープによく絡む麺、トロトロに煮込まれた自家製チャーシュー。40年の人生で一番多く食べたラーメンは、その日も変わらない味だった。
「無鉄砲」の大将のもとへ
丼を傾け、スープを飲み干す。その時、髙田さん自身も予想しなかった思いが、グツグツと沸き上がってきた。