生物など存在しない地下深い暗闇で、何かが蠢めき音を立てる。かつてここで生活していた誰かの気配だろうか。まるで冥界に迷い込んだような、その不思議に魅入られる。

『鉱 ARAGANE』ではボスニア・ヘルツェゴビナの炭鉱、『セノーテ』ではメキシコ・ユカタン半島の洞窟内の泉と、地下世界を訪ね撮影してきた小田香監督。最新作『Underground アンダーグラウンド』でカメラを向けたのは日本全国の地下空間。地下鉄の走る線路や雨水路など、16ミリフィルムで撮影された空間が見たことのない景色として広がっていく。

 監督自ら「地下世界三部作」の最終章と語る本作。東京国際映画祭やベルリン国際映画祭でも出品されたこの驚異的な映画がどのようにつくられたのか、小田香監督にお話をうかがった。

ADVERTISEMENT

小田香監督

◆◆◆

日本のいろんな地下空間を撮ろうというプロジェクト

――今回、日本のさまざまな地下空間が映されていますが、主に撮影したのは、どういった地域ですか?

小田 沖縄、北海道、大阪を中心に、島根や佐賀、滋賀など全国の色んな地下を回りました。ひとつの地下空間に見せるため別々の空間を編集でくっつけたりしているので、特定は難しいかもしれませんが。

――たしか数年前に札幌で《Underground》という小田さんの短編が上映されていましたよね。

©2024 trixta

小田 最初は、日本のいろんな地下空間を撮ろうというプロジェクトとしてスタートしたんです。まずは私が住んでいる大阪の下水路を撮ろうと、役所に行って「こういう映画を撮りたいから地下におろしてほしい」と話をしました。ちょうど大阪のシネ・ヌーヴォで『鉱 ARAGANE』と『セノーテ』が上映されていたので、「見に来てください、それで判断してください」と言ったんですけど、見に来てくれた後に「撮影は難しいかなぁ」と(笑)。

 それで大阪の下水路を撮るのは一旦諦めて関西圏でのリサーチを始めたあと、色々な縁があって札幌の地下を中心に10分弱くらいの映像インスタレーションとして撮らせてもらったのが、一番初めに作品としてまとめた《Underground》プロジェクトの一編です。完成した作品は、札幌の地下通路で四面を使った常設の4面インスタレーションという形で上映しました。そこから色々な地域を回っていって。

©2024 trixta

――次はどこの地下に?

小田 札幌の後、プロジェクトがずいぶん動いたんです。大きな変化としては、(シャドウ役の)吉開菜央さんがチームに加わり、続いてカメラマンの高野貴子さんが入り、照明の方も入ってきて、というふうに、スタッフがだいたい10人態勢くらいになった。その態勢でまずは佐賀の洞窟に行き、島根の古墳に行って、そのあとに沖縄へ、という流れだったと思います。