震災3年後の感覚
ある運河のほとり。永瀬さん演じる“男”は、水面に浮くガラクタを集めては廃工場へと運び、小さな筏を作っている。そこに1人の女(ミズモトカナコ)が現れる。街に、彼ら以外の人影はない。男の回想、女が見る夢、残された写真などから断片的に示される過去。何があったのか。そして、2人はどこへ行くのか――。
ほぼ全編モノクロのサイレント映画。厳密にいうと無声であり、セリフはすべて字幕。物語は終始謎めいている。
2014年製作/47分
原案・主演:永瀬正敏 脚本・監督:井上淳一 主題歌:PANTA
©ドッグシュガー、シネマスコーレ 配給:ドッグシュガー
3月7日(金)よりテアトル新宿ほか全国順次公開
「撮影は、東日本大震災からわずか3年後でした。僕らの中には、まだその記憶も、イメージも鮮明で。この作品の発想の根底にもそれがあります。震災直後に被災地を訪れた時、僕はあまりの惨状に唖然として立ちすくんでしまいました。すると、永瀬さんは写真もやりますよね、是非撮ってください、と被災者の方から言われました。それは、次の世代、また次の世代へと、この状況を伝えてほしい、忘れないでほしいんだ、という思いからの言葉だったのでしょう。僕はそうやって受け取った皆さんの思いを、俳優として、いつか作品の中で表現しなくてはと考えていて、そんな時にいただいた短編製作の話だったんです」
と言いつつも、シネマスコーレの支配人・木全(きまた)純治さんからの監督依頼を永瀬さんは断っている。
「監督は井上さんに、とお応えしました。僕は、いい作品には出たいほうなんです(笑)。監督ほどの力量はないですし、出演しながら監督するのは、とても無理ですから」
すると、「いやいや」と、井上さん。「僕が永瀬さんから受け取った構想メモは、そのまま企画書として通用するくらい、完璧でした。僕は、それを具体的に広げていったというくらい。ただ、僕らの感覚はやはり通じ合っていましたね。僕たちのみならず、当時の日本は、震災で傷付いた人たちに何と声をかけていいかわからない。でも、何かはしなければ、という雰囲気に満ちていました」