黒澤映画へのオマージュも

『いきもののきろく』――かの黒澤明監督による作品(『生きものの記録』/55)と同名である。作中には明らかなるオマージュシーンも挿入される。この大胆なタイトルを選んだのは、井上さんだった。

「『生きものの記録』は、原水爆の恐怖に怯え、やがて狂ってしまう男を描いた、黒澤には珍しいタイプの作品です。つまり、永瀬さんが作ったプロットに僕が加えたのは、原発事故による被害のイメージというわけです。本作の主人公は、三船敏郎さん演じる男の“のちの姿”、という裏設定も――。我ながら無謀だと思いますが(苦笑)、短編だからこそ、できたことだったのかなと思っています」

 

 最後に、気になる一言を井上さんは呟いた。

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「本作が古びてないっていうのを、どう思ったらいいのか、ちょっと考えはしますね。決して、いい時代を描いた作品ではない。あの空気感が今もリアルだっていうのは……」

 その真意を、ぜひ劇場で確かめてほしい。

 

いのうえじゅんいち/1965年生まれ、愛知県出身。早稲田大学在学中から若松孝二監督に師事し、若松プロダクションにて助監督を務める。90年に監督デビュー。さらに脚本家、プロデューサーとしても活躍。最新作は脚本・監督を手がけた『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』(2024)。

ながせまさとし/1966年生まれ、宮崎県出身。83年『ションベン・ライダー』でデビュー。以来、映画を中心に活躍。海外映画への出演も多く、アジア人俳優として初めてカンヌ国際映画祭に3年連続で出演作が公式選出された。2018年、芸術選奨文部科学大臣賞受賞。最新主演作は『箱男』(2024)。

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映画『いきもののきろく』
3月7日公開
http://www.dogsugar.co.jp/ikimononokiroku