A子 (東北なまりで)タバコ持ってねがな。ダメが?

 

藤倉 お酒飲んだの?

 

A子 お酒……カストリ*……。

 

藤倉 いつから出てんの?

 

A子 最近ね。昔の友達いでね(もつれた口調)。

 

藤倉 昔の友達がいる?

 

A子 ウン、姉さん。有楽町の。

 

藤倉 有楽町の……。親分さんがいるの? お姉さんがいるの?

 

A子 (隠しマイクのコードを見とがめて)ナーニ、これ?

 

藤倉 (知らぬふりして)有楽町の友達は何人くらい?

 

A子 ずいぶんいますよ。新聞社だろ、ダメだッ。新聞社嫌いだ、俺は。

 

藤倉 嫌いかい? 嫌われちゃっちゃ困るな。

 

A子 新聞社はすぐそういうこと聞きたがる。

*カストリ=闇市に出回った粗悪な密造酒のこと

「娘たちはヤクザを気取った乱暴な口をきくが、言葉の端々には子どもらしい無邪気さがのぞいていて、なんとなく板につかない感じである」と、放送から間もない1947年6月、雑誌「スタイル」に載った「考へ(え)させられる彼女達 『夜の女』を録音した感想」で藤倉は振り返っている。記事は続く。

「サツに7回挙げられた」

藤倉 そうかい。じゃあね。そんな野暮なこと聞かないけどね。うーん。サツ(警察)へ何回ぐらい挙げられた?

 

A子 (すごい早口で)そんなこと、いちいち聞かなくたっていいだろ、全く。オトシマエ取るぞ……。そうでもないか。(ひと呼吸置いて)あたしは7回挙がりました。

 

藤倉 7回ですか。

 

A子 ええ、常習犯。いや、そうでもないか。

 

藤倉 タバコうまい?

 

B子 おいしいわ(脇で「おいしいわけないでしょ」という別の女の声)。

 

藤倉 いつごろから吸ってるの?

 

B子 女学校時代から吸ってたの。

 

藤倉 女学校時代から? どこの女学校?

 

B子 (それには答えず)アラ、姉さん、こんばんは。

 ここでもう1人の人物が現れる。

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「年のころなら26~27。小柄ではあるが藤色のセーターにグレーのズボンがピッタリと身について、まるで宝塚の舞台から抜け出してきた男装の麗人といった、さっそうとした姿である」

「ガヤガヤしゃべっていた娘たちが慌てて挨拶をする」

「考へさせられる彼女達」で藤倉はこう回想する。「こんな女に誰がした」は「水玉模様のターバンの印象的な美人」と書いている。

「NHKアーカイブス」より

 彼女が「ラク(チョウ)のお時」*だった。「数えで21歳になったばかり」とした資料もあるが、1981年の朝日新聞社会部著『有楽町有情』は「昭和3年生まれ」と突き止めており、それだと満19歳か、場合によっては18歳だったことになる!

*「ラク町」=有楽町のこと。藤倉は「らく町のお時」と書いているが、表記はメディアによってバラバラ。便宜的にこれで統一する