「将来への希望は?」「そりゃあ人間ですもの」
藤倉 あのね、真面目に働いている給仕さんとかね、女事務員さんとかに対してね、あなた方、どういう気持ちを持ってる?
お時 でも、更生するって気持ちがないんじゃないわよ。あるんだけどもね。結局、みんな続かないんじゃないのかしら。
藤倉 どうしてだろう。
お時 ねえ、あたしなんかもね。随分この女の子たちをね、カタギにしようと思って、4~5人をね、マーケットなんかに勤めさせたりなんかしたわよ。(せき込むように早口になって)誰も周囲の目が、そういうふうに見ないでしょう? 今の生活ってものをね……(電車がガードを越える音で声がかき消される)。結局、女の子たちにしても、今まで遊んでたという気持ちがさ、頭にあるからさ、どうしても、こう、ひがんじゃうんじゃないのかしら。
藤倉 世間が冷たい目で見るっていう?
お時 そう。まあ、真面目になったところで逆戻りしてね、また帰ってくるのよ。結局。
藤倉 で、稼いだお金っていうのは一体どんなことに使っているの?
お時 いわゆる食べるものに追われるんじゃないかしら。やっぱり、お食事だって、高いもんね。ひと月の給料にしたら、あの子たち、相当の稼ぎになるんじゃないのかしら。
藤倉 うち(家)から、もう飛び出しちゃってるの?
お時 ほとんどそうね。
藤倉 将来に対する希望なんか持ってないのかな?
お時 そりゃあ人間ですもの、ないってことはないでしょ。
「『そりゃあ人間ですもの』という(お時の)言葉は、藤倉アナの質問に間髪を入れず応答した強い調子のもの」「この一言のインパクトは強く」「この番組のメッセージがこの一言に集約されているように感じられる」と宮田章「『録音構成』の発生―NHKドキュメンタリーの源流として」=「NHK放送文化研究所年報第60集」(2016年)所収=は述べる。藤倉アナとお時の会話は続く。
藤倉 だけど今、享楽に夢中になっているってわけ?
お時 あたしなんかね、戦災で焼かれてさあ。ほんとにね、両親もね、兄弟も、なんにもないわよ。それで、まあ結局、こういうふうにぶらぶらしているけどね。
藤倉 そういった人の親分なんているの?
お時 います。親分てのはあたしの姉さんなのよ。姉さんって、ほんとの姉さんじゃない。やっぱり、盃を交わしたね、いわゆる……。あたしたちは、まあ、愚連隊系って人間なのよ。不良少女ね(また電車の音)。
藤倉 たびたび警察に挙げられるでしょ?
お時 ええ。
藤倉 でも、またすぐ出てくるよね。警察へ挙げられるとどういうことになるの?
お時 あのね、住所、氏名を聞かれてね、病院へ送られるわね。病気のない人は帰ってくるの。(電車の音、警笛)病気のある人は病院で治療して、病気が治れば、また帰ってくるの。それでも、結局、女の子っていうのは、またここへ戻ってくるのよ。
藤倉 戻ってきちゃうの?
お時 だから、同じことなのよ。