お時 なんなの、この人。
藤倉 新聞社の者です。
お時 ああ、そう。ごめんなさいね。
B子 姉さん、ターキー*みたいね。
藤倉 ほんと。ターキーみたいだね。
お時 なんなのよ。
B子 なんでもないよ。サツに何回挙がったって。
*ターキー=戦前の松竹歌劇団のスターで「男装の麗人」と呼ばれた水の江瀧子のこと
「不意を打たれて、さすがの姉御もちょっとたじろいだ様子だったが、『なんですの?(なんなのよ)』と開き直ってきたので、すかさず質問の矢を放つと、別に気にもかけず、歯切れのいい江戸弁でサラサラと答えてくれた」という(「考へさせられる彼女達」)。
「何人くらいいるの?」「150人くらい」
お時 (録音コードを見つけて)あんた、何ぶら下げてんの?
B子 これで、あんた、ゆわえていくんじゃないでしょうね。
藤倉 ゆわえていきゃしない。大丈夫よ。お姉さんのね、配下に何人ぐらいいらっしゃるの?
お時 配下ったって、あたしら、そういうあれじゃないもん。
藤倉 だって、「お姉さん、お姉さん」て騒いでいるじゃない。
お時 そんなこと……。
藤倉 いつも、この所に何人ぐらいいるの?
お時 150人ぐらい。
藤倉 昼間、何をしているの?
お時 昼間? 別に何をしてるって……。みんな映画に行ったりなんかしているわよ。
やりとりは核心に迫っていく。
中流家庭以上の女性も多かった?
藤倉 戦災者が多いの?
お時 そうでもないわね。中流家庭以上の娘が大部分を占めているような気がする。
藤倉 そーお?
お時 本当に生活に困ってやっている人は少ないんじゃないのかしら。あたしの見たところでは、ね。そりゃあ、よその人にはなんて言うか知らないけどね。あたいたち、現にそういう女の人と同じにさ、寝起きこそしないけどさ、毎日顔を合わせているとさ……。
A子 ごめんらさあい。あたい、酔っぱらっちゃっれさあ(とメロメロ)。
藤倉 どこで酔っ払ったの?
お時 いいわよ、いいわよ。
B子は「女学校時代」と口を滑らせているが、雑誌「新聞記者」の1946年5月号の今井多久彌「夜の女の解剖」という記事の末尾に載っている、同年3月10日に品川周辺で検挙された女たちの学歴を見よう。「高(等)小(学校卒)」71人、「尋(常)小(学校卒)」60人で計68%を占めるものの、「高(等)女(学校卒)」がそれらに次ぐ42人(22%)もいる。
同年1月31日付朝日も、初めて検挙された「夜の女」18人の3分の2が高等女学校卒だったと書いている。娘を高等女学校に行かせられる家は大半が「中流家庭以上」だろう。