翌日、麻衣さんは大学病院の看護師に送ったメールに、気持ちの変化を綴った。
「昨日はありがとうございました。
NIPTで陽性結果が5月1日に出てから、夜眠れなかったり、中期中絶のことを想像してしまったりと不安な日々でした。けれど、藤田先生にしっかりエコーで診ていただき、関連文献等お話しいただいてだいぶ気持ちが楽になりました。
もちろん不安が全て消えたわけではありませんが、羊水検査とその結果が出るまで悪いことばかり考えないように、前向きに過ごしたいと思います。
昨日は診察後帰りに遅めのランチをしたのですが、久しぶりにご飯の味を楽しめた気がします。」
妊娠も、検査も、まわりには言えなかった
麻衣さんは6月7日に大学病院で羊水検査を受けた。
針をお腹に刺し、子宮内の羊水を採取する。その羊水に含まれている胎児由来の細胞から、染色体の変化を調べる仕組みだ。そして、両親からの遺伝の可能性もあるため、麻衣さんと直樹さんの血液も採取して、染色体の構造を調べることになった。
結果が出るまで数週間かかる。麻衣さんには、ものすごく長く感じられた。
子どもを寝かしつけた後、考え込むことがしばしばあった。
「結果について考えてもしょうがないのに、ついついよくないことばかり思い浮かべてしまう。子どもたちの世話と、目の前の仕事のことだけを考えるようにしよう」
子どもたちには、まだ妊娠していることを伝えずにいた。万が一のことを考えて、羊水検査の結果が出るまでは、と控えていたのだ。
それでも、子どもたちは母親の変化に敏感だった。
「ママ、お腹が大きいよ」
膨らんできたお腹は隠しきれない。麻衣さんは笑いながら、
「食べ過ぎたわー」
とごまかした。内心は、気が気でなかった。
麻衣さんはNIPTの結果が出た後も、今まで通り通勤していた。自分では、以前と変わりなく業務に励んでいるつもりだった。
ある時、上司に声をかけられた。
「ずっと暗い顔をしているね」
麻衣さんは、はっとした。表情や言葉に、つらい心情がにじみ出ていたのだろうか。