記者が1年前の5月7日のことを尋ねると、麻衣さんは詰まりながらも、言葉を振り絞った。
「この日のことをすごく覚えていて、羊水検査をして『大丈夫』となった後もすごい思い出すんですよね。私あのとき、あんなことをしようとしていたんだな……って。すごい思い出して。何度も思い出して……」
麻衣さんは目を真っ赤にはらし、涙をこぼした。一度は我が子に対して下した決断に罪悪感を覚えている。トラウマ体験のように心に残り、思い出す度に複雑な感情が渦巻いていた。
「もう妊娠したくない」。
麻衣さんは湊君を出産した際に、卵管を結紮(けっさつ)する不妊手術を受けた。
自分の行動はどこで間違ったのだろうか、どこで修正すべきだったのだろうか、と自問を重ねたこともある。
「NIPTの結果だけをぽんと渡されて、もうだめだと思って、すべてをシャットダウンしてしまった。詳しい先生にしっかりと診てもらうことが大事なんだと思う。私の場合は、そのおかげで希望が持てたから」
「羊水検査を受けずに中絶」は拙速なのか
取材で一通り話を聞いた後、ふと疑問に思った。思い出すのも辛い体験を、なぜ身を削る思いで語ってくれたのだろうか。
「実は、この体験をどこかで発信したいと考えていました。今の時代、多くの女性が大学を卒業していますし、仕事をしています。就職してある程度仕事をしてから結婚しようと思うと、どうしても出産は30歳以降になります。私は周りの人と比べて、そんなに結婚が遅かったわけではないけれど、それでも初産が30歳でしたし、3人目の出産では36歳になっていました。出産年齢も上がっているので、妊娠中に安心したくてNIPTを受ける人は、ますます増えると思います。私のような事例があることを、これからNIPTを受けるかもしれない人たちに知ってもらいたいです」
麻衣さんは、直樹さんと共働きで、家事も育児もこなす。家族の将来や子どもの教育を考えながら、家計をやりくりしている。似たような境遇の女性はたくさんいるだろう。