病院で羊水検査を受けるために仕事を休む際には、「ちょっと調べることがあって」とごまかし、詳しい説明を避けた。これ以上、周囲に心配をかけたくはなかったし、NIPTを受けたと明かすことにためらいがあった。

検査から3週間後…

6月29日、麻衣さんは大学病院で、羊水検査の結果を伝えられた。検査結果の報告書には、こんな記載があった。

「親由来の8p23.2領域の重複が認められました」
「表現型異常の原因にはならないと考えられ、通常当施設においては報告対象外となる」

ADVERTISEMENT

専門用語が並んで難解だが、こういうことを意味する。

4月に麻衣さんがクリニックで受けたNIPTの結果は、「8p23.2-p23.1」という領域の重複の可能性を示していた。今回、精度の高い羊水検査で調べ直した結果は、8p23.2領域のみの重複で、特段の症状が出ないタイプの変化だった。つまり、NIPTの結果は、実際とは染色体の重複範囲がずれていたことになる。

この重複は父親からの遺伝だった。病院で採取した直樹さんの血液からDNAを解析した結果、胎児と同じ8p23.2領域の重複が見つかったのだ。つまり、この重複があっても、直樹さんと同じように特段の症状が出ないだろうという安心材料になる。

解析を担った検査会社では、この重複が検査で見つかったとしても、特段の症状の原因にならないと考えられるため、通常は検査を受けた人へ伝えていない。

「やっぱりご両親からでしたね」

藤田医師の予想通りの結果だった。

「良かったです」

麻衣さんは、顔をほころばせた。

この時、NIPTの結果が出てから、既に2カ月近く経っている。麻衣さんはここまでの長い時間を振り返ると、純粋に喜びきれず、複雑な気持ちだった。

「ここまで時間をかけて検査しないと、前向きになれないのか」

11月、帝王切開で出産した。3400グラムの元気な男の子だった。

出産後に決意したこと

2022年5月、記者は麻衣さんの自宅を訪ねた。次男の湊君は生後5カ月になり、離乳食におかゆを与えると、きれいに平らげるという。ほっぺたはぷっくりとして健康そのものだ。