上野と西山は、5年ぶりの対戦
編入試験は上野と西山にとって、5年ぶりの対戦となった。上野は三段リーグで10期を費やしたが、20歳で四段に昇段した。その間に同門で2歳下の後輩である藤本渚(現六段)が先にプロ入りを果たしている。その話題に触れると、一瞬言葉に詰まった。
「それまで歳下に先を越された経験はまったくなかったと思います。それに自分の方がだいぶ早く三段になっていましたし、いつもにまして悔しさを感じました。逆にそれをバネに頑張ろうと思えたのもあるのですけども」
声に抑揚はないが、勝負師の持つ烈しい炎を垣間見た気がした。大一番での勝負強さについては、こう話した。
「たくさんの人が見ている前で、恥ずかしい将棋は指せない、いい将棋を指したいという思いが、集中力を高めるというか。その意味で編入試験はまさに大きな舞台でした」
上野は西山の得意戦法である「三間飛車」を予想してきたが、戦型は想定外の展開を迎える。挑戦者がとった作戦は「四間飛車」だった。
「西山さんの過去の棋譜を調べていたのですけど、四間飛車は想定になかった。本当に意表をつかれたというか、まったく考えていなかった」
開き直りの攻めが勝機を生む
上野は時間を使いながら、慎重に駒を進める。「ミレニアム囲い」を選択したが、西山はそれにも対策を用意していた。
「相手の想定範囲で進んでいる印象を受けました。落ち着いて淡々と指されている印象だったので、ペースを握られたかなと感じていました」
持ち時間が削られていく中、行き詰まった局面を打開しようと、上野が動いた。
「すでに形勢が悪くなっていたので、開き直って勝負に行くしかないと思いました。もう攻めて前進していくしかないと。それが結果的に良い踏み込みになった」
二つの棋戦優勝をもぎ取った若手旗手の実力が、ここから発揮されていく。
記録係の木村は、西山の形勢が少しずつ悪くなっていると感じていた。終盤に西山が反撃に出るも、「上野四段の懐が深い」と思えた。




