「全体的に洗練された、完成度の高い将棋」
最後は上野が見事な収束を見せた。チャンスを掴んでからは、逃さないという気迫を感じた。その鋭さは獲物を狙う猛禽のようだった。
「西山さんの終盤力を警戒していたのですが、今回の将棋では中盤でも抑え込まれる展開になり、ペースを握られてしまいました。全体的に洗練された、完成度の高い将棋の印象でした。
世間も含めて、西山さんを応援する方が圧倒的に多いのは十分わかっていました。ただ、若手棋戦で優勝という結果を出しているからこそ、それに恥じない将棋を指さなければならなかった」
終局後の西山は、意外にも柔らかな表情だった。感想戦では自ら読み筋を述べ、検討に熱がこもった。終わりに記録席を向くと、指し手についてどう思ったかを尋ねた。突然の問いかけに木村は驚いたが、自分の読み筋を素直に伝えた。
「西山先生はいつも私たち後輩を気にかけてくださいます。やはりこういう方がトップに行くのだなと思いました。将棋が強くなることはもちろんですが、人間性も高めていかないと近づいていくことはできないです」
妹弟子の藤井が、感想戦の様子を見つめる
感想戦の後半に、妹弟子の藤井が対局室に姿を見せた。この日に会場に来るか迷っていたそうだ。
「編入試験に関して、いくつかお仕事の依頼があったのですが、気持ちの上でお受けすることができませんでした」
仕事を断った自分が、対局場に足を運んでいいのか、そう思えた。前日に棋士室で今泉健司五段と会った際に話すと、「来る一択や」と背中を押されたという。
藤井は西山の後方に控えめに座り、感想戦の様子を見つめていた。
「やっぱり、姉様の背中は広く見えます。いろいろなものを抱えていらっしゃる、背負ってくださっている。それは西山朋佳だけではなく、福間香奈さんも同じだと思います。トップが背中で示してくださっている」
初の「女性棋士」誕生への挑戦は、1勝2敗となり、後がなくなった。だが西山に悲壮感はなく、残された舞台を楽しもうとしているようにも感じた。
なお、上野はこの対局の後に順位戦C級2組から1組への昇級を決め、五段に昇段している。
写真=野澤亘伸





