初の女性棋士誕生を懸けた棋士編入試験は、最終第5局を迎えた。挑戦者・西山朋佳女流三冠の悲願達成への期待に、メディアも将棋ファンも沸き上がる。試験官になった柵木幹太四段は、奨励会時代の“戦友”との一戦に、棋士人生を懸けて臨もうとしていた。
激闘 編入試験第5局
後手番の西山は三間飛車に振り、自らがもっとも信じる戦法に命運を懸けた。柵木は囲いを天守閣美濃から端玉銀冠へと組み替える。これは対西山戦用に用意したわけではなく、昔から知識としてある形で、時間を使わずに指し進めたという。局面は柵木の作戦勝ちになり、西山は徐々に苦しい形勢になっていった。
中盤、手応えを感じているはずの柵木が、髪をかきむしり、盤上を覗き込んでは「いやぁ」と声を漏らす。苦境に立たされているかのようだが、これが柵木のもっとも集中した状態だった。
「三段リーグ時代は、いつもそんな感じでした。幹事の先生に『ちょっとうるさいって、言っている人もいるから』と注意されたこともあります(笑)。相手に迷惑がかからないように、自分の手番にしかやらないようにしているのですが、『ああ』とか『いやー』とか言っているときの方が、集中力が高まるんですよ。
棋士になってからは、振る舞いも気にしていたのですが、西山さんとは三段時代以来の対局で、当時を思い出して昔のスタイルで行きたかった。あの頃が、一番気持ちが入っていた自覚があるので」
頭をよぎった過去の対局
柵木は奨励会時代の棋譜を今も多く残しており、西山とは級位者時代も含めて17局対戦した。
「盤を挟むのは久々でしたから、記憶にとらわれずに指すつもりでした。でも、ここは攻めてきそうとか、我慢してきそうとかいうところは、懐かしい感じを覚えました。やっぱり、これまで指してきた西山さんだなと。最初は私が上手くいっていたと思うのですけど、途中から力を出してこられたのはさすがでした」
終盤には互いに前傾姿勢になり、天井から盤を写すモニターに頭部が映り込むシーンが見受けられた。柵木は三段時代を思い出していたという。西山の胸中にも、同じ想いがあっただろうか。
柵木は三段リーグ14期目となる72期で、2回目の次点を獲得、フリークラスでの昇段を果たした。25歳でのプロ入りは、年齢制限での退会まで残り2期であったが、不安はなかったという。
「最後の5期は2桁以上勝っていましたし、実力的にはいつかは上がれると思っていました。自己暗示のようなものかもしれませんが、退会になることは一度も考えませんでした」