伊藤はインタビューで「内容的に、実力をつけることはできていないという感じがしている」と語ったが、この1年で粘り強さには磨きがかかっている。藤井の終盤もそうだが、伊藤の終盤には恐ろしい毒が仕込まれているのである。

眠っていた怪獣の完全復活

 伊藤は6月14日の第5局以降、B級1組順位戦で菅井竜也八段に勝ち、そして王座戦で広瀬章人九段と羽生善治九段を連破して挑戦者となるなど絶好調だ。

 7月4日、王座戦挑戦者決定戦の感想戦を終えた伊藤に少しだけ話を聞くことができた。

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――-挑戦おめでとうございます! やはり叡王防衛が大きかったですか。

「はい、プレッシャーがありましたから」

――叡王戦第5局、もっとも苦しいと思ったのはどの局面ですか?

「67手目▲7一飛と打たれたところです。銀を打って受ける予定でしたが、歩を垂らされてと金攻めで勝てないことに気が付きまして。最後は幸運でした」

――あの日、佐々木八段からは対局が終わったあと連絡はありましたか。

「いえ、珍しくありませんでした(笑)。斎藤さんとずっと話していたみたいです(※斎藤は午前2時ごろまで佐々木・門倉と一緒だった)」

――叡王戦の記者会見で話していた通り、藤井の前に座る権利を得ました。王座戦五番勝負第1局はシンガポールで行われます。

「海外は小学生の頃、ベラルーシで行われた将棋大会に出たとき以来なので楽しみです」

 伊藤は、いい笑顔で笑った。

 昨年、伊藤が叡王を獲得したとき、「怪獣がもう一体現れたようなもん」と表現したが、あれから1年、眠っていた怪獣が完全復活した。

写真=勝又清和

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