全力を出し切れた新人王戦の決勝三番勝負
――上野さんはプロ入り直後に新人王戦の決勝三番勝負を指したことでも注目されました。それは三段時代にプロ公式戦で勝ち進んでいたことを意味しています。
上野 公式戦では相手が棋士ですから、こちらとしては格上にぶつかっていくだけという感覚です。1局1局の積み重ねの結果、負けたら上がれないかもという不安がある三段リーグと比較すると気楽に指せました。とっておきの研究を三段リーグ用に取っておくという感覚もなく、公式戦を沢山指したいと思うことはモチベーションにもなりましたね。
新人王戦のトーナメントで、特に伊藤先生(匠叡王)と増田先生(康宏八段)を連破できたのは、今振り返ると神がかっているなと思います(笑)。四段昇段が決まる直前に決勝三番勝負への進出が決まったので、もし三段リーグでの昇段を逃してもこちらではという思いもありました。
――三番勝負の相手は弟弟子の藤本渚六段でした。
上野 正直、藤本君にプロ入りで後れを取ったのは悔しかったです。それまでは先輩とばかり戦っていて、後輩に抜かれたことがありませんでした。同門の弟弟子に抜かれたのは悔しい気持ちと同時に、刺激にもなりましたね。
決勝三番勝負は第1局が私のプロデビュー戦となりましたが、かなりうまく指せた印象があり、いいスタートを切れました。第2局は序中盤で形勢を損ねましたが、粘り強く指せて二転三転の勝負です。負けはしましたが充実感がありました。第3局は最終盤で藤本君にミスがあり、これは運がよかったとしか言えないです。全体を通してではどの将棋でも全力を出し切れたと思います。
地元の声援が力に…加古川青流戦での優勝
――プロ入り直後の棋戦優勝でしたが、その後、ご自身の環境が変わったということはありましたか。
上野 先輩からお祝いをしてもらったくらいで、次の対局まで(ほぼ1ヵ月空いていた)は、普段通り研究会中心の生活でしたね。あと、プロ棋士になったらしなくてはいけないことをいくつか。例えば、落款を作ったりなどですね。
――新人王戦優勝からほぼ1年後の昨年、今度はもう一つの若手棋戦である加古川青流戦でも優勝しました。
上野 加古川はやはり地元ということもあって、思い入れのある棋戦ですね。決勝三番勝負を地元で指せるのもよかったです。地元の声援も感じて力になり、優勝という結果を出せてうれしかったです。奨励会三段の立場で公式戦を指すのは気楽な面もありますが、昨年の加古川青流戦はすべて棋士という立場で指して、結果を出せたことで自信になりました。
写真=深野未季/文藝春秋
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