「グミを食べるおばあさんなどいない!」

 決め顔をしてそう自信満々に断言するのが、アルコ&ピース平子祐希扮する「人情刑事」呉村安太郎だ。その傍らには「当時の価値観を考慮してそのままお送りしております」のテロップ。画角もアナログ時代の4:3。2週にわたって放送された『架空名作劇場「人情刑事 呉村安太郎」』は、平成初期の1993年に放送された番組の再放送という“設定”だ。だから、呉村を演じているのは、この世界線では平子ではなく「加賀美勲」。ちゃんとオープニングやエンディングで“あの頃”のテロップでそう表示されている。昭和の名優らしく、やたら毛量が多い。ちなみに「一個人が運営」しているという“ファンサイト”によると、このシリーズは、1987年から2004年まで実に第18シリーズまで続いたそうだ。

※写真はイメージ ©GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

 昨今、「昭和フェイク」などと呼ばれる動画が人気だ。その代表格といっていいのが西井紘輝による「フィルムエストTV」だろう。昭和に存在しなかった「テレワーク」や「新紙幣」を昭和のワイドショー風にリポートした動画が注目され、友近と組んで80年代の2時間ドラマを“再現”した「友近サスペンス劇場」は400万回を超える再生数を記録した。『架空名作劇場』の監督を務めたのも西井紘輝だ。脚本を担当したのは前田知礼。架空の『古畑任三郎』回を想像した「『古畑任三郎vs霜降り明星』の脚本を全部書く」をnoteに投稿。それが大きな話題となったことをきっかけに放送作家となった変わり種。“本歌取り”が得意な彼とフィルムエストTVは、最高の組み合わせといえるだろう。

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 大げさな演技や早口になる語尾、独特な悲鳴、ちょっとダサめのカメラワークなどで、昭和~平成初期風味を再現し、何度も編集を重ねる地道なアナログ的作業で色味を白く飛ばし画質を落としている。題字もおそらく手書きでいかにもな感じだし、エンディングテーマの「陽炎」も、ああ、こういうの!という曲。それを歌っているのが「和泉清一」ならぬ監督の西井紘輝自身というのが驚きだ。

 そうした“あの頃”の中にあえて「フードデリバリー」や「闇バイト」などの現代的なモチーフが使われているのが、絶妙な違和感を生んでいて面白い。何気ない一言から気づきを得て強引とも言える推理で真犯人にたどり着くお決まりの展開も心地良い。部下から「またお得意の人情ですか?」と言われ、「バカヤロウ!」と平手打ちをする昭和男の呉村は、当然事件解決後には、犯人に人情でお説教。そして友近、いや、三篠慶子演じるバーのママとやっすいコメディを披露して幕を閉じる。ハマりまくっている。「これが人生、これぞ人情」が呉村の決めセリフらしい。うるせえ。  

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『架空名作劇場「人情刑事 呉村安太郎」』
テレビ東京 特別番組
https://www.tv-tokyo.co.jp/kakuu_meisaku/