スティーヴン・キングには確かに影響を受けた
『いくつもの鋭い破片』には、映画版『シャイニング』公開当時の話が印象的に登場する。物語の発端、とも言える。原作小説をこよなく愛するブレットが過大な期待を胸に映画館へ出かけて行ってがっかりする一方、はじめて謎の転校生ロバートを見かけるのもその劇場でのことなのだ。そして小説家志望(というかまさに小説を書きつつある)ブレットは、1981年に刊行された『クージョ』を読んでいて、そのラストの大胆不敵さに感銘を受けたりもする(週間ベストセラー第1位として書店に並んでいるさまの描写もある)。
BEE 『シャイニング』を観に行ったというあのエピソードはほんとうの出来事で、ブレットが劇場で見かける転校生のロバート・マロリーというキャラクターも、1982年の段階からすでに作品に登場していた。映画を観てがっかりしたのも事実(笑)。僕は原作を愛しすぎていたからね。なのに映画版はいろんな意味で“違う”ものになっていた。もちろん、あれから何度も見直すうちにみんなが“すごい”と言う理由はわかってきたけど、いまだにあの映画をこわいと思ったことはないな。あれは恐怖映画というよりも“不幸な結婚”と“ダメな作家”、それから怒りに囚われた“アルコール依存症の父親”についてのダーク・コメディだと思っている。うちの父親もアルコール依存症ですさまじい怒りを爆発させる人間だったから、僕はそもそも機能不全家族のテーマに惹かれるところがあるんだけどね。
近過去から徐々に大過去へと移行していくこの作品の構造そのものが、『スタンド・バイ・ミー』や『IT』の冒頭部を思わせないだろうか。
BEE 『IT』に影響を受けたのはたしかだと思う。いや、これを書きはじめた当初、あれはまだ出ていなかったね。『スタンド・バイ・ミー』の入っている中篇集『恐怖の四季』は出ていたかな。作中には『クージョ』が出てくるけど、あの頃は『デッド・ゾーン』や『ファイアスターター』あたりも読んでいた。キングの新刊はリアルタイムで読んでいたよ。でもある時期からは追わなくなった。もう昔ほどにはキングが刺さってこなくなってね。ただ、すでに身体には染みついているから、もちろん影響はある。だいたい、『ザ・シャーズ(THE SHARDS)』(『いくつもの鋭い破片』の原題)なんていかにもキングっぽいだろ(笑)? 鋭い破片はこわいもんだよ、僕は尖った破片がこわいんだ。
とはいえ、エリスの特徴だった乾いた文体は、キングの饒舌体とは真逆のように感じられる。
BEE どうかな。実は影響は強いと思う。イタリック体の使い方とか、文章が途中で切れてポップ・ソングの歌詞が入ってきたりするところとか。でも、あの当時に『いくつもの鋭い破片』を書きあげていたとしたら、もっともっとスティーヴン・キングっぽい文体になっていたかもしれないな。
