ミラノ・コルティナ冬季五輪のフィギュアスケート女子では、日本勢から中井亜美が、銀メダルとなった坂本花織に次ぐ銅メダルに輝いた。中井はショートプログラム(SP)とフリーのいずれでもトリプルアクセルを決め、オリンピックでこの技に成功した4人目の日本女子選手となった。
今回の中井の活躍を機に、女子では世界で初めてトリプルアクセルに成功した第一人者・伊藤みどりにも改めて脚光が当たった。金メダルを期待された1992年、アルベールビル五輪でみせた演技はーー。(全3回の3回目/はじめから読む)
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1992年2月、伊藤みどりは日本中の期待を一身に背負いながらアルベールビル五輪を迎えた。雰囲気に慣れるため開会式より早く現地に入ると、本番会場で練習した。この時点では絶好調で、開会式でも笑顔で行進する。だが、選手村を離れ、練習場を移ってから調子が狂い出す。それまで積み重ねた経験から期待だとか思惑だとかいろんなことを考えるうち心と体がかみ合わなくなり、跳べるものが跳べなくなってしまったという。
オリジナルプログラム(OP=現在のショートプログラム)ではどうしてもミスは許されないと、悩みに悩んでトリプルアクセルはあきらめ、難易度の低い3回転ルッツで行くと決めたが、それにもかかわらず転倒してしまう。OPは4位で、この時点で自力優勝はなくなり、いますぐにでも日本に帰りたくなるほど落胆した。
しかし、それからフリーまでの中1日、部屋で考えに考えた末、オリンピックで女子初のトリプルアクセルを成功させようと、自分の代名詞である大技に集中することに決める。ただ、フリー当日の練習でもトリプルアクセルは跳べたり跳べなかったりで、挑戦するのはかなりリスクが高かった。実際、本番冒頭のトリプルアクセルでは転倒してしまい、会場からは大きな溜息が洩れた。



