「何かに挑戦したら確実に報われるのであれば、誰でも必ず挑戦するだろう。報われないかもしれないところで、同じ情熱、気力、モチベーションをもって継続しているのは非常に大変なことであり、私は、それこそが才能だと思っている」――羽生善治「決断力」より
藤井聡太王将に永瀬拓矢九段が挑戦する、第75期ALSOK杯王将戦七番勝負(主催:日本将棋連盟、特別協賛:ALSOK、特別協力:毎日新聞社・スポーツニッポン新聞社)の第7局が、3月25・26日にかけて大阪府高槻市の「関西将棋会館」で行われた。第4局でカド番に立った藤井は、第5、6局を勝ち、ついにタイに戻して最終局へ持ち込んだ。(全2回の1回目/後編を読む)
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永瀬が用意していた「3択を突きつける新手」
ここまで先後を交互に入れ替えて指していたが、最終局ということで改めて振り駒が行われ、藤井が先手となった。藤井が角換わりに誘導し、永瀬はまたもそれを受けて立ち、9筋の突き越しを許して駒組みを急ぐ作戦を採用した。前例は数多くある。
藤井も経験は豊富で、後手で自ら採用したときは7勝1敗1千日手(タイトル戦は2勝1敗1千日手)。先手で9筋を突き越したときは12勝1敗(うちタイトル戦では3勝)と、先後を問わず圧倒的な成績を収めている。
もちろん永瀬もそんなことは百も承知だ。用意していた手順は、玉を左奥まで入城させてから、7筋の歩を突き捨て、桂を跳ねて仕掛けるというもの。しかるのちに、じっと4筋の歩を突く。これまた凝りに凝った手順だ。
こう書くのは本連載で3度目だが、「調べるまでもなく新手」である。仕掛けた後、飛車先の歩も交換せずに手を渡すなど、見たことがない。このシリーズの永瀬は一貫して、後手番でも常に先攻して動き、初見で正解手を選ぶのが難しい局面を藤井に突きつけている。
しかし、藤井の指し手によどみは感じられない。銀取りに桂を跳ねられたとき、銀の逃げ場所の有力な候補は「まっすぐ上がる」「右に引く」「左に引く」の3箇所あった。
だが、藤井はわずか10分で左に引いた。玉の逃げ道をふさぐ、直感的には選びづらい逃げ場所だというのに。




