洋上で重宝する「FAX新聞」
そしてFAXは海でも活躍している。共同通信社による創刊54年の「共同ニュース」。これはインターネットの使いづらい洋上での貴重な情報源となる「FAX新聞」で、短波無線を受信して読むことができるのだ。共同通信社総務局にお話をうかがった。
「衛星インターネットの発達で、電子メールでの受信船舶が増えていますが、遠洋漁船などには短波無線利用FAXの一定のニーズがありますね。コスト面などが理由のひとつとされます」
重要ニュースは押さえた上で、海運や水産業界、燃料価格に関するニュースを重点的に掲載。
一般の新聞には無い「日本航行警報」のコーナーがあり、海上保安庁提供の情報で「チリ西岸で危険な訓練が行われる」などの航海をする者にとっての警戒情報が載っている。海流予報図、国政選挙時には不在者投票用に立候補者名簿や政党公約なども届ける。
「ただ、時には無寄港での船上生活が年単位に及ぶ皆さんのため、堅苦しくない紙面を心がけています。スポーツやエンタメ関連のニーズは高く、できるだけ紙面を割いています」
季節感のあるニュース(桜の開花など)、日付や曜日を意識するようなニュースも、生活が単調になりがちな船員たちには喜ばれているという。
回数が少ないものの、号外も発行。アポロ11号の月面着陸(1969年)が最初で、野球WBCの日本優勝時にも発行したという。
さらには日本語ニュースだけでなく、外国人船員向けの英語版も発行。いまも契約船舶は400数十隻を数え、愛されている。
諸外国では「過去の遺物」とされることが多いFAX。アメリカを代表するスミソニアン博物館が「産業遺産」として所蔵しているほどだ。だがここ日本では独自の価値を見出され、まだまだ役立てられている。