厨房がない。店員もいない。なのに、そばが出てくる——。JR上野駅11・12番ホームに静かに佇む「セルフ駅そば」は、見慣れた駅そばの常識をひっくり返す存在だ。
人件費と食材費が同時に上がり続けるいま、この“無人店舗”が示すのは苦肉の策なのか、それとも駅そばの新しい形なのか。駅そば研究者・鈴木弘毅氏の書籍『「駅そば」から広がるそば巡り』(交通新聞社)より、一部を抜粋して紹介する。(全4回の1回目/つづきを読む)
※店舗情報・価格・サービス内容等は取材時点のものです。
◆◆◆
上野駅ホームに現れた「セルフ駅そば」とは
最新技術の導入によって人件費高騰と労働力不足をクリアすることは、近年の駅そばにとって急務のひとつである。ましてや、食料品の価格高騰に歯止めがかからないご時世である。駅そばは廉価での提供が前提となる業態だから、仕入れ価格が上がったからといってその分をそっくりそのまま売価に反映させたのでは、客足は遠のくばかりだ。かといって、売価を据え置いて利ざやを削るわけにもいかない。もともと薄利で運営してきたのだから、無理をすればただちに経営に悪影響を及ぼすことになってしまうだろう。駅そばに限らず、安価なファストフード店の多くが、頭を抱えているのではないだろうか。
このような大問題を一気に解決できるかもしれないと思わせる店が、2023年夏にJR上野駅ホームに現れた。その名も、「セルフ駅そば」。駅そばはもともとセルフサービスで営まれることが多いものだが、そこにあえて「セルフ」と冠するのはどういうわけか。興味津々で、11・12番ホームへ向かう。件の駅そばは長いホームの南寄り、ホーム上としては比較的人通りが少ない場所にあった。ここは、かつてコーヒースタンドだった物件だ。
