後期研修医は治療の全責任を一人で負う。初期研修とは比較にならないほどの業務量があり、朝は6時に出勤し、退勤するのはいつも22時すぎ。家に戻る時間が惜しく、空いている当直室を使って病院に泊まり込んだ。週に2回は当直で、夏休みの3日以外は病院に顔を出した。

 上司に恵まれ、厳しくも丁寧な指導を受けた。4名の医師たちはチームワークもよく、誰もが外科医の仕事に誇りを持っていることが伝わってきた。

「上司の期待に応えたい」「早く一人前になりたい」という思いから、症例欲しさに先輩の当直を譲ってもらってまで余計に働いた。1年間の出勤は362日にのぼった。

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 そんな激務でも不思議と忙しさを感じなかった。少しずつできる手術が増えていく充実感があった。私は外科医という職にとりつかれ、仕事中毒になっていった。

 自他ともに認める不器用ゆえ技術はたいして向上しなかったが、上司は粘り強く指導を続けてくれた。その結果、1年がすぎるころには、通常、後期研修医では経験できないほどの手術件数をこなしていた。

 一刻も早く現場に出て、自分の力を試したい。胸の奥では、外科医としての期待と野心がワクワクと熱い塊になって脈打っていた。

「おまえ、ふざけてんじゃねえぞ!」

 後期研修2年目、私は関東地方のU大学病院に配属された。専門医資格を取得するには、1年間は大学病院でしか学べない症例を経験する必要があるためだ。

 後期研修医としてU大学病院に飛び込んだ私に待っていたのは、ひたすら雑用をこなす日々だった。患者に必要な入院書類の記入、術前に必要な採血や点滴、検査……。それまでのT病院ではすべて看護師がしてくれたことも、ここでは後期研修医が行なわなければならない。

 ある上級医には術前の画像検査でこだわりの撮像法があった。上級医がスムーズに手術できるよう術前の準備を整えるのもわれわれの仕事だが、ほかの医師の手術では必要のないオーダーだったこともあり、当日準備係だった私はその用意をすっかり忘れていた。手術前のカンファレンスでその画像が用意されていないことを知った上級医は激怒した。

「おまえ、ふざけてんじゃねえぞ!」