女生徒が「裸の情死論議」で学校騒動

「このほど生徒約80人に『有島武郎氏の死についての感想』を宿題として出したところ、生徒の大部分が共鳴したような答案を書いたばかりか、8日夜には数人が2階病室に集まり、一同裸体になって『赤裸の人間と有島氏の情死問題』に花を咲かせた。そこへ院長が来て生徒2人を殴打したので、11人が連帯退校を申し出。他の生徒も同情して紛争は拡大する形勢」

有島問題から女生徒の退学騒ぎの学校騒動に(読売)

 影響は国内にとどまらず、7月13日付東朝朝刊には「有島氏の情死が紐育(ニューヨーク)で大評判」という「11日ニューヨーク特派員電」が。

 当地の新聞は有島武郎氏の情死に関する東京からの電報が異彩を放っている。ニューヨーク・アメリカンはこの事件を評してこんなことを言っている。「もしこの恋が三角関係であって、しかも米国流に理解されたなら、秋子がその夫と離婚してから2人はパリにでも行っただろう。もし四角、五角関係であっても死ぬようなことはなかっただろう。一体、日本人はかかる情事をあまりに真面目に考えすぎる」

事件はニューヨークでも大評判になった(東京朝日)

 この心中ぐらい、新聞や雑誌の社説や評論以外に、有名無名合わせて談話や感想が登場した事件はないのではないか。有島武郎と親交があった人をはじめ、ありとあらゆる文化人が意見を寄せ、2人の行動に対する賛否、中間の意見がごうごう。

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 一般読者も加わって一種の社会現象となった。新聞、雑誌に見解が見える主な名前を挙げただけでも中條(宮本)百合子(作家)、石原純(理論物理学者・歌人)、秋田雨雀(劇作家)、宇野浩二(作家)、山川菊栄(女性活動家)、麻生久(労働運動家)、白柳秀湖(作家)、山川均(社会運動家)、山田わか(女性運動家)、羽仁もと子(ジャーナリスト)、三宅雄二郎(雪嶺、ジャーナリスト)、與謝野晶子(歌人)……。

各紙には賛否、中間の多くの談話が載った(報知)

 最も有名なのは、札幌農学校時代の恩師である内村鑑三が8月5日発行6日付萬朝報に載せた談話だろう。「同胞に告ぐ 死ぬな」として自殺を否定。「もし捨つべき生命があるならば、恋愛のために捨つるなかれ。公義のために捨てよ」と訴えた。

内村鑑三 ©文藝春秋

 やや意外なところでは大正デモクラシーを代表する思想家・吉野作造が雑誌「文化生活の基礎」8月号で、死に対する批判を受け入れながらも、有島武郎を「親しみのある友達」と呼び、「うるわしかつたのは」「ああした不正な死に方に(よっ)てさえも傷(つ)けられない程の極めて美しかつた彼の一生である」とした。

 また経済学者・河上肇は「泉」終刊号誌上で「短いわずかな交流」を回顧。5月初旬に京都で会った時、武郎が既に死を決意していたのだろうと推測して追悼した。

吉野作造 ©文藝春秋
河上肇 ©文藝春秋