「真剣勝負はああいうものなんだ」

「俺はあの試合、セコンドとしてリングサイドのいちばん近くから観ていたんだ。猪木さんもアリもあの極限の緊張感のなか、3分15ラウンドを闘い抜いたんだからたいしたもんだよ。当時、あの試合についてボロクソに言うヤツがたくさんいたけど、真剣勝負はああいうものなんだ。侍が真剣で斬り合う果たし合いだって、向かい合って微動だにせず、糞尿だって垂れ流し。何時間もその状態が続いたあと、一瞬の隙を見て一太刀で勝負は決まるのと同じだよ。

 あの緊張感で、アリの1メートル以内に近づくなんてなかなかできない。ボクシングの世界ヘビー級チャンピオンのパンチを受けたことがある日本人なんか誰もいねえんだから。不用意に近づいたら一発で終わるかもしれないし、下手すりゃ殺されるよ。

 アリのグローブもちっちゃかったしさ。あれはパンチの威力を弱めるんじゃなく、拳を守るためだけのグローブだろ。そしてアリのほうだって、つかまれたら何をされるかわからないから前に出られない。要するに、知らないってことがいちばん怖いからさ。

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 そんななかで猪木さんはアリを倒すために、最後の最後まで必死に闘っていた。心から勝ちたいと思っていたからこそ、ああいった闘いになったんだよ」

©getty

 結局、3分15ラウンドを闘い抜いて、判定は1―1の引き分け。猪木はのちに「もっと簡単に勝てると思っていた」と語っているが、金銭的に多大なリスクを背負ってまで実現させたアリ戦に勝利することはできなかった。