ペールワンを翻弄した猪木のグラウンドテクニック
アリとの命懸けの闘いのあと、9億円ともされる多額の借金を背負った猪木。しかし、アリ戦は世界中から酷評を浴びたが、同時に「アリと闘った猪木」の名はよくも悪くも広まり、世界中から試合のオファーが届くようにもなった。そして猪木は借金返済のために、異種格闘技戦をはじめとした異質な試合を数多くこなしていくこととなる。
76年12月12日、パキスタンで行われた現地の英雄アクラム・ペールワンとの伝説的な闘いもその一つだ。
「猪木さんに付いていろんなとこに行ったけど、いちばん印象に残っているのは、やっぱりパキスタンかな。ペールワン戦の猪木さんには、あらためてすげえ人だなと思わされたよ。度胸あるよな。異国の敵地で、もしかしたら殺されてもおかしくないような状況だからな。ガチガチの闘いをペールワンが挑んできて、アリ戦とはまた意味合いが違うけど、これも普通の勝負ではない果たし合いだった。目に指も入れるし、向こうは嚙みついてくるしで。猪木さんもムチャクチャだったもんな。
俺だったらプレッシャーで頭がおかしくなってるかもしれない。万が一いかれちゃったらテレビ放送はパーになるだろうし、新日本という会社もパーだろうしね。
今の総合格闘技だったら、相手がどんな技を使う選手かいくらでも情報があるけど、当時はペールワンがどんな選手なのかまるっきりわからない。だから触れ込みだとルー・テーズにも勝ったとか、何十戦だか、何百戦だか連勝していたとか言われてたんだよ。だけどビデオもねえし、確かめようがない。アリ戦もそうだったけど、闘ううえでいちばん怖いのは『知らない』ってことだから。
相手がどんなことをやってくるかわからない時ほど、怖いものはない。ペールワン戦なんかとくに傾向と対策を練りようがなかった。日本人にとってはパキスタンというのもまた未知の国だったから、下手すりゃ魔術でも使うんじゃないかとか。そんな感じだよ」