事故には、いくつもの生死を分けた瞬間があった。そして、真菜さんと莉子ちゃんだけではなく、他の被害者も深刻な被害に遭ったことも強調しておかねばならない。

事故直後の飯塚の様子

 池袋暴走事故は、二人が死亡、八人が重傷、二人が軽傷を負った大惨事となった。

 現場では、複数の目撃者が一一九番、または一一〇番通報を行った。開示請求で入手した東京消防庁の通報記録などによると、三〇代の男性は食事に行くため、真菜さんが直前に通った商店街の歩道を同じ向きに歩いていた。

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 すると、後方から第一現場の衝撃音が聞こえ、飯塚の車が第二現場に突っ込んで停止するまでの一部始終を目撃。その後、一一九番通報をして事実関係とともに「(飯塚の)車が跳ね上がった」と伝えた。また、偶然にも池袋消防署の職員が、夜勤明けの帰宅途中に事故を目撃し、救護活動を行っていた。

 通報を受けた東京消防庁の総合指令室は、各消防署に出動指令を下した。現場からもっとも近かったのが、北に約五〇〇メートルの距離にある豊島消防署だ。救急隊員とレスキュー隊員が車両に飛び乗り、緊急走行して現場へ向かった。その後、豊島区、文京区、千代田区などから、消防車両二四台が続々と到着した。レスキュー隊員らは、車内に閉じ込められている者たちの救助に着手した。

「早く助けてあげて」

 運転席に座っていた飯塚は呆然自失の状態から、やっと自分が事故を起こしたことに気づいた。エアバッグが飛び出し、フロントガラスはめちゃくちゃに割れていた。その隙間から、ボンネットから立ち上る煙が見えた。車外の様子は詳しくはわからなかった。可能な限り、車の損傷を確認しつつ、助手席の妻の状況を確認した。

 妻は顔を歪めながら、かろうじて「大丈夫」と声を絞り出した。飯塚は胸や左足に激痛を感じながら、体に食い込んでいたシートベルトをどうにか外したが、放心状態だった。飯塚は胸骨、妻は胸骨や肋骨を折るなど重傷を負っていた。