世界的振付家のモーリス・ベジャールの傑作『ボレロ』と『ザ・カブキ』が相次いで上演される。柄本さんは現在『ボレロ』を踊ることを許されているただひとりの日本人男性ダンサーだ。
しかし、その『ボレロ』デビューはほろ苦いものだった。初めて踊ったのは2015年。足首の深刻な故障を抱えていた上に、突然の雨で屋外ステージに設置された赤い円卓には水たまりができていた。
「何一つ思うように踊れませんでした。袖に引っ込んだ瞬間に突っ伏して号泣しました」
ジョルジュ・ドン、シルヴィ・ギエム……世界屈指のダンサーが踊ってきた『ボレロ』を、今回は〈20世紀の傑作バレエ2〉で、満を持して昼夜2回踊る。
暗闇の中、赤い円卓の上の“メロディ”(柄本さん)が周囲を取り囲む大勢の“リズム”を挑発していき、やがて両者の熱気溢れる舞いは最高潮に達する。まさに全身全霊を捧げることを要求される作品で、ダンサーの精神性もむき出しになる怖さがある。
「主役を踊らせていただくようになって、いつも感じているのは、団員みんなが背中を押してくれるからこそ、中央に立っていられるということ。
『ボレロ』も、僕を見るみんなの視線に力をもらって踊りきることが出来るんです」
周囲を圧倒する華を持つダンサーはあくまで謙虚だ。