「断ったら、おまえを逮捕する」――1965年に暗殺された過激な黒人解放運動のカリスマ、マルコムX。事件から55年が過ぎた2021年、ある元覆面捜査官の“遺言”によって「新たな可能性」が浮上した。

 狙撃直前に奪われた警備、でっち上げられた逮捕劇、そしてFBIやCIAの関与疑惑。事件から60年近くを経てなお、娘たちが国を提訴し続ける理由とは何なのか。鉄人社の新刊『世界の要人暗殺ミステリー』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目)

マルコムXの三女のイリャサ ©getty

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いつ殺されてもおかしくない状況

 そんなマルコムがNOIを離脱するのは1964年3月。最高指導者のイライジャ・ムハンマドが複数の若い女性秘書と不倫関係を持ち子供をもうけていたことへの失望、前年1963年11月に起きたケネディ大統領暗殺に関して発した「鶏はねぐらに帰る(因果応報の意)」と殺人を肯定するような言葉が炎上し、ムハンマドから90日間の謹慎処分を受けたのが直接の原因だった。

 マルコムはこれを、権力の座を奪われると危惧したムハンマドの政治的な粛清と捉え、彼との離別を決断。

 新たにムスリム・モスク社、およびアフリカ系アメリカ人統一機構(OAAU)を設立し、それまで否定的だった「メッカ巡礼」(サウジアラビア西部にあるメッカを拝礼するイスラム教徒の最も重要な宗教的行事の一つ。通称ハッジ)を実行するなど、劇的な思想的変容を遂げる。

 一方、NOIはこうしたマルコムの行動を大きな裏切りとみて、激しい報復に出る。脱退直後からメンバーによる尾行、空港での待ち伏せ、講演会場での妨害。1965年2月14日にはニューヨーク・クイーンズ区の自宅に火炎瓶が複数投げ込まれ、家屋が炎上・大破するなど、いつ殺されてもおかしくない状況だった。