岡部さんは現局面をどう見ますか?
岡部 今日は、なぜ級位者は「藤井聡太の将棋を真似ないほうがいい」のかをお聞きしたいと思います。
高野 では、まずこちらの図面をご覧ください。これは2017年6月26日に行われた竜王戦の本戦で、先手が藤井聡太七段(当時四段)、後手が増田康宏六段(当時四段)。局面1図は、後手が3三桂と跳ねたところですが、岡部さんは現局面をどう見ますか?
岡部 うーん。先手の飛車が詰んでいることに目がいきますね。ただ、先手の玉はまだ左辺にも逃げられそうだし、7五の角もいい位置にいるので、五分五分といった感じでしょうか。
高野 先手の攻めはどうですか?
岡部 飛車は使えていないし、桂馬が捕まりそうな感じもします。どうなんですかね。ここから攻めきれる感じではないですかね。
高野 普通はそう感じますよね。しかし藤井聡太はここから寄せていくんです。それが局面2図なんですが、ここでもう「詰めろ」がかかっているんです。
岡部 そっか……。3三角成に同銀。そして4一金の詰めろですねぇ。
これでは普通は寄りません。しかし……
高野 『初段会議』で、攻めの駒は「歩、銀、大駒、最後に桂」と紹介しましたよね。
岡部 戻れない桂馬を早く跳ねることで、級位者はかえって勝率を下げているという話ですよね。
高野 そう。そして攻めの主軸は、歩と銀、そして飛車、角の大駒なんです。でも、この藤井将棋はどうでしょう。
岡部 攻めの主軸が角と桂馬ですね(笑)。
高野 そうなんです。これでは普通は寄りません。しかし藤井聡太は寄せてしまう。
岡部 桂馬を早く跳ねて、攻めの主軸にしていくところがすごいけれど、その点が「級位者が真似しないほうがいい」理由なんですね。
高野 そういうことですね。「桂馬の高飛び歩の餌食」といいますが、この6五の桂馬が、その「歩の餌食」となるかどうかは紙一重。藤井聡太七段に限らず、強い若手棋士は早く桂馬を跳ねますが、僕でもその良し悪しを判断しかねることが多くあります。良い子は真似しちゃいけません。