往年の名人の棋譜もオススメですよ
岡部 女流棋士の棋譜並べはどうですか?
高野 とてもいいですよ。少年サッカーの指導現場でも、「女子サッカーの試合を見たほうが、パススピードも子供に近いのでより参考になる」といいますが、これと同じようなところはあるでしょうね。
岡部 振り飛車党の方が多く、男性棋士の対局とは違った面白さもありますよね。
高野 大山康晴十五世名人、中原誠十六世名人といった往年の名人の棋譜もオススメですよ。こちらも基本に忠実で、級位者の方にも参考になる将棋です。
渡辺明さんでもフィットするのに1年かかった
岡部 いろいろお話を聞いていると、今、我々がテレビやネットの中継で見ている将棋が、いちばん参考にならないんですね(笑)。よく「角換わり」の将棋が指されますが、あれも真似しないほうがいいですか?
高野 真似しちゃいけません。とくに今の「角換わり」はやってはいけませんね。昔は、角換わりといっても、しっかり囲って戦っていました。しかし、今は、角の打ち込みを防ぐために、バランスを重視した駒組みを行います。
岡部 局面4図のような形ですよね。
高野 玉がしっかり囲えていませんよね。これを指しこなすのは本当に難しい。
岡部 玉の固さより、玉の空間を重視しているといいますよね。
高野 渡辺明棋王が、昨年度、A級からB級1組に落ちましたよね。彼はもともと玉をしっかり囲って攻めるタイプでしたが、この空間を重視する将棋に戸惑っていたのではないかと。でもそこから適応して、今年度は15連勝も達成しています。つまり、ようやくこのバランスを重視した将棋にフィットしてきたんです。
岡部 渡辺明さんでもフィットするのに1年かかった。
高野 そうです(笑)。ですから、級位者の方は真似しちゃいけない。
岡部 つまり、我々級位者が自分で指す将棋と、中継を見て「すごい!」と思う将棋は、別物ということですね。
高野 そうです。別物ですね(笑)。
写真=深野未季/文藝春秋