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初段を目指す人が「藤井聡太の将棋を真似ないほうがいい」理由とは

初段を目指す人が「藤井聡太の将棋を真似ないほうがいい」理由とは

高野秀行六段に聞いてみた――『将棋「初段になれるかな」会議』番外編

2019/02/08
note

往年の名人の棋譜もオススメですよ

岡部 女流棋士の棋譜並べはどうですか?

高野 とてもいいですよ。少年サッカーの指導現場でも、「女子サッカーの試合を見たほうが、パススピードも子供に近いのでより参考になる」といいますが、これと同じようなところはあるでしょうね。

岡部 振り飛車党の方が多く、男性棋士の対局とは違った面白さもありますよね。

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高野 大山康晴十五世名人、中原誠十六世名人といった往年の名人の棋譜もオススメですよ。こちらも基本に忠実で、級位者の方にも参考になる将棋です。

 

渡辺明さんでもフィットするのに1年かかった

岡部 いろいろお話を聞いていると、今、我々がテレビやネットの中継で見ている将棋が、いちばん参考にならないんですね(笑)。よく「角換わり」の将棋が指されますが、あれも真似しないほうがいいですか?

高野 真似しちゃいけません。とくに今の「角換わり」はやってはいけませんね。昔は、角換わりといっても、しっかり囲って戦っていました。しかし、今は、角の打ち込みを防ぐために、バランスを重視した駒組みを行います。

岡部 局面4図のような形ですよね。

(局面4図)2018年7月17日 棋聖戦五番勝負第5局 羽生ー豊島戦など、現在、プロの対局でとてもよく見られる局面

高野 玉がしっかり囲えていませんよね。これを指しこなすのは本当に難しい。

岡部 玉の固さより、玉の空間を重視しているといいますよね。

高野 渡辺明棋王が、昨年度、A級からB級1組に落ちましたよね。彼はもともと玉をしっかり囲って攻めるタイプでしたが、この空間を重視する将棋に戸惑っていたのではないかと。でもそこから適応して、今年度は15連勝も達成しています。つまり、ようやくこのバランスを重視した将棋にフィットしてきたんです。

岡部 渡辺明さんでもフィットするのに1年かかった。

高野 そうです(笑)。ですから、級位者の方は真似しちゃいけない。

岡部 つまり、我々級位者が自分で指す将棋と、中継を見て「すごい!」と思う将棋は、別物ということですね。

高野 そうです。別物ですね(笑)。

何度も「会議」を重ねて1冊の本が完成した

写真=深野未季/文藝春秋

将棋「初段になれるかな」会議 (扶桑社新書)

高野 秀行、岡部 敬史、さくらはな。

扶桑社

2018年12月27日 発売

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