四月は新入社員のシーズンである。集団行動が苦手で会社勤めを避けてきた筆者からすると「大変な毎日が始まったんだな」と思えてしまう。ただ、映画を観ながら「こんな会社だったら就職してみたいな」と妄想することはある。
今回取り上げる『蘇える金狼』は、その最たるものだ。
主人公の朝倉(松田優作)は大企業・東和油脂に勤めるサラリーマンだが、実は銃も格闘技も凄腕で、裏では強盗もしている。そんなピカレスク的ヒーローの活躍を描く作品なのだが、筆者が夢中になったのは次から次へと激しいアクションが繰り広げられる、裏の顔での場面ではない。しがないサラリーマンとして会社で過ごす、表の顔の場面だ。
というのもこの東和油脂、直属の上司である次長に小池朝雄、その上の部長に成田三樹夫、専務に草薙幸二郎、社長に佐藤慶……幹部たちを演じるのがことごとく筆者が大好きな俳優なのである。初めて社内が映し出される場面では、朝倉が仕事中にくしゃみをすると小池が皮肉を言い、成田が呆れた顔で眺めているのだが、この二人と同じフロアで働けるというだけで朝倉がうらやましく思えてしまった。
そして、以降はこの名優たちが演じる幹部連中の一挙手一投足に魅入られていく。
彼らは裏で不正をしていて、そのために総会屋・桜井(千葉真一)に脅される。その場面も素敵だ。ショボンと片隅にたたずむ小池、丁寧に応対しながらも真心は皆無な成田、面倒臭そうな佐藤……三者三様のリアクションにそれぞれの役者の特徴が出ていて、ファンとしてはたまらない。
それでいて、朝倉には目一杯大きく出ようとする。脅迫してきた殺し屋を彼に始末させようとするのだが、その命令をする場面では、社長室を真っ暗にして幹部の一人一人の声を響かせながら言い含める……という手の込んだ演出で朝倉に圧迫感を与えていた。
ただ、その関係性も長くは続かない。彼らはミッションを成功させた朝倉を殺そうとするのだが失敗、逆に詰め寄られる。この時、彼らはそれぞれに責任をなすりつけ合うのだが、ここでの各人の動きが最高だ。土下座して許しを請おうとする成田、偉そうにふんぞり返ったままの佐藤、うつむいて震え続ける草薙、朝倉にボコボコにされた痛みで呻き声を上げることしかできない小池。そして、「仲間割れは後でゆっくりやりなさいよ」と呆れた朝倉に銃を向けられると、一斉にビクッとのけぞるのだ。その一連のユーモラスな芝居は、見ていて可愛らしさすら覚えてしまう。
こんな賑やかな上司たちと過ごせるなら、新入社員も毎日楽しいだろうに……と思う。