年に1度の世界保健機関(WHO)総会が5月18日から始まった。中国を擁護する余り世界的なパンデミックを引き起こしたと批判されている事務局長のテドロス・アダノムは、「ウイルスの脅威は依然として高い状況が続いており、まだ長い道のりがある」と語り、国際社会の連携を呼びかけた。
一方、最初の感染拡大を引き起こした中国国家主席の習近平は、北京からテレビ会議で参加。「中国は透明性をもって、責任ある態度で、WHOや関係国に情報を提供してきた」とこわばった表情のまま、自己弁護ともとられかねない演説を始めた。また、WHOに関しては、「テドロス事務局長の指導のもと国際的な感染対策において多大な貢献をしてきた」と称賛することも忘れなかった。
カメラを見つめた習の視線の先には、この日の会議には参加しなかった米国大統領、ドナルド・トランプの姿があったのは間違いない。
トランプは、この総会の直前に、事務局長のテドロスに宛てた書簡を自身のツイッターで公開。WHOの一連の対応を厳しく批判したうえで、「WHOが30日以内に大幅な改善に取り組まなければ、拠出金の停止を恒久化し、WHOへの加盟も見直す」と述べ、脱退の可能性まで示唆したのだ。
「12月初旬には中国内の異変を察知していた」
トランプが厳しくWHOを批判する背景には、新型コロナを巡る米中対立がある。トランプはこれまでも、WHOについて「中国寄りだ」と主張し、4月には拠出金を一時的に停止する方針を表明した。だが、米中対立はWHOだけの話ではない。新型コロナの発生当初から、米中両国は激しい「情報戦」を繰り広げてきたのだ。
中国政府が、ヒトからヒトに感染することを明かし、習近平が「断固として蔓延を抑え込め」と指示を出したのは1月20日のことだった。
この発表を受けた米政府の動きは速かった。中国での感染者数が1万人に迫っていた1月30日、トランプは他国に先駆けて中国全土への渡航禁止措置に踏み切る。この時、日本は湖北省への渡航中止を勧告していたにすぎない。
なぜ、トランプはわずか10日間で最高レベルの規制に踏み切ることができたのか。東アジア外交に携わる米政府当局者が言う。
「我々は昨年12月初旬には中国内の異変を察知していたからだ」