今春、LINEに届いた「新型コロナ対策のための全国調査」を目にした人も多いのではないだろうか。第1回の調査には約2500万人が回答。日本人の約5人に1人が回答した、国勢調査を除けば史上2番目に大きな調査という。
この「LINE全国調査」を企画したのが、慶應義塾大学教授で、神奈川県顧問を務める宮田裕章さんだ。
「news zero」のキャスターを務める有働由美子さんが、新型コロナウイルス対策の第一人者から「宮田さんに話を聞いたほうがいい。彼には次の社会のビジョンが見えている」とアドバイスされ、「文藝春秋」7月号で連載「有働由美子のマイフェアパーソン」では初となるオンラインで対談を行った。
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有働 先生のことはテレビで拝見して、大学教授らしからぬ銀髪にパンクなファッションでずっと気になっておりました(笑)。
宮田 私は慶應大学と東京大学の医学部で教授をしていますが、医師ではありません。医療や行政、企業の現場にいる人たちと連携し、ビッグデータやAIなどの科学を用いて社会をより良くすることを目指して研究しています。日本政府が推進する「Society5.0」や、世界経済フォーラムのプロジェクトなど、未来の社会を構想する国内外の約300のプロジェクトに関わっています。髪や服装についてはよく聞かれますが(笑)、スーツよりも世の中の多様性を表現できると思っているからです。
有働 プロジェクトを300も!?
そんなにお忙しい中、SNSを使った全国調査を発案したきっかけは何だったんですか。
宮田 医療政策という点から言えば、感染症も広義の専門内ですが、これまでは心疾患やがんなどの非感染症との関わりが強く、感染症はあまり縁のない分野でした。ですから、ダイヤモンド・プリンセス号での感染が報じられていた頃は、事態を見守っていました。ただ、事態の推移を見るうちに、これまでの対策だけでは難しいなと感じました。
クラスター対策では見えないデータ
有働 何がマズかったんでしょう。
宮田 現状の感染症の対策は水際対策の、超急性期の救急対応の専門家が中心になっています。SARSのように症状が発現すれば対処できるのですが、新型コロナウイルスは無症状の潜伏期間中も感染力を持ち、しかもその期間が2週間と非常に長いのが特徴です。
日本は当初クラスター対策をしていたので、かなり的を絞った感染者のデータしかもっていませんでした。それではウイルスが抑え込めなくなった時に、打つ手が限定されてしまう。無症状者を含む膨大なデータも組み合わせて、多角的な視点から対策を練る必要があるんじゃないかと思いました。
有働 クラスターが発生した場所だけでなく、全国の状況を把握するためにSNSに目をつけたのですね。
宮田 私とLINEの執行役員である江口清貴さんが神奈川県顧問を務めていたこともあり、LINEを使ったアプローチを考えました。初期のクラスター対策は功を奏していましたし、厚労省の友人たちも夜も寝ずにコロナと闘っていました。ただ、カウンターリアクションに多くのリソースを使わざるをえず、新しいことを企画する余裕がないという窮状を聞き、外部だからこそ出来ることを支援として届けようというのがプロジェクト開始の動機です。