“新解さん”の愛称で知られる『新明解国語辞典』。9年ぶりの改訂版となる「第八版」が11月19日に発売となった。人間臭くて、読んで楽しい辞書といわれる“新解さん”は、新版で何に興味を持ち、何に怒っているのだろうか――。

 赤瀬川原平氏のベストセラー『新解さんの謎』の担当編集者であり、自身も『新解さんの読み方』『新解さんリターンズ』(夏石鈴子名義)を出版した鈴木マキコ氏が、いち早く第八版に目を通して、読みどころをレポートする。

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「照らし合わせ用って、なんっすか?」

 わたしが新解さんの八版の前で、うっとりしていたら、猫田君がやってきた。猫田君は大学生のアルバイト、わたしの仕事場の雑用や力仕事に手を借りている。

「ちわーっす」

「はい、こんにちは。今日もよろしくね」

「わ、鈴木さん、これ、どうしたんすか」

 猫田君は、作業机の上を見て言った。机の上には、赤、白、青の新解さんが3冊のっている。猫田君はわたしが『新解さんの謎』のSMだと知らないから、わたしを本名で呼ぶ。ちょっと、どきっとする。

©文藝春秋

 

「新解さんの八版だよ。今日発売だからね、はりきって開店前に並んで買ってきたの。赤白青できれいでしょ」

「まじっすか、やばいっすね」

 猫田君のすごいところは、だいたいこの2語で会話が済むところだ。

「それに、新解さんってなんっすか。これ、辞書ですよね。なんでそう呼ぶんすか」

「そう呼びたいから、そう呼ぶの。これはわたしが自分のお金で買ったから、わたしがどう呼ぼうと、それはわたしの自由。わたしは自由な女なの」

「まじっすか、やばいっすね。それに、どうして、赤・白・青の3冊買うんすか。中身、全部同じですよね」

「同じだよ。わたしはね、改訂版が出たら最低3冊は必要なの。職場、自宅、そして照らし合せ用に使うから」

「まじっすか、その照らし合わせ用って、なんっすか?」

筆者が作成したメモ ©️文藝春秋

 はい、文字通り、八版と七版を、いちいち照らし合わせる作業をするのです。新解さんの八版ではだいたい1500の新語・新項目が追加されたそうです。その言葉を知りたい。そして、同時に、八版で消えた言葉も調べたい。それは、わたしの性格が悪いから、という理由ではなくて、消えた言葉を知って、お見送りしたいからです。新しい言葉は「こんな言葉を載せました!」と、宣伝される。でも「こんな言葉を消しました!」とは全然言われない。それは宣伝にはならないから。