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「異性に、力ずく」“新解さん”のセクハラ表現は第八版ではどうなった?〈煽り、下着、家事、ラジオ、別居、唇…〉

『新明解国語辞典』第八版の研究 #2

2020/11/23
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「聞きにくい」離婚

 五、六、七、八版「聞きにくい (二) 尋ねるのがためらわれる様子だ。」用例「離婚の原因は―」

 初版、二、三、四版 用例「自分の事は―」

 きっと五版の時に身近な人が離婚したのかもしれません。まあ、離婚の原因は相手が言い出すまで、聞かなくてもいいのではないでしょうか。聞きにくいものは、言いにくいものでもある。

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 六、七、八版「ごたごた」の用例。「金のことで―して、結局、別れることになった」

 四、五版「そんなことで―して、結局、別れることになったんだと思います」

 初版、二、三版では、別れについて用例では言及なし。

 六版から、金の問題が明らかになった。さて、九版では、お金以外の別れの原因がわかるかもしれません。これも見守りましょう。時間がたつと、だんだん言えるようになるのかもしれません。

「別居 本来同居するはずの家族などが、事情があって別れ別れになって住むこと。〔狭義では、夫婦仲が悪くなり、別れて暮らすことを指す〕」「―生活すでに七年に及ぶ」

 五版から、別居生活はすでに7年に及んでいました。部屋が狭いからとか、生活のリズムが違ってきて仕事が出来ないから、とかそれは別居の本当の理由ではない、と新解さんは、おっしゃっている。そうか、夫婦仲が悪いから別居するんだね。

七年の別居 ©️文藝春秋

新解さん「キス」の作法

「唇」の用例。「―を盗む〔=相手の意志にかかわらずキスする〕

「盗む」の用例。「唇を―〔=相手の予期していないキスをする〕」

 これは、どちらも相手の同意が無いと思うのですが、果たして九版はこのままなのでしょうか。心配です。同意を得て下さい。かと言って、

「今からキスするよー」

「はいよー」

 でも、変な感じがする。これは大変難しいので、各自よく考えて行動して下さい。

 七版「挑む (二) 自分の言う事をすぐに聞かぬ異性に、力ずくで迫る。〔多く、男性が女性にそうする場合を指す〕」

 六、五、四版「自分の言う事をすぐに聞かぬ異性に、力をもって迫る。」

 三、二、初版「自分の言う事を聞けと、女に迫る。」

 この「挑む (二)」は、八版から消えました。それは当たり前です。初版から三版までの「挑む」は一体何なんですか。こわいです。嫌だと言って抵抗している女の人に、その気持ちを無視して力ずくで迫っている。迫った後は、どうなるのか。セクハラ、パワハラです。嫌なものは嫌、力ずくで迫るな、言う事を聞かすな、という時代になった、ということです。

 八、七、六版「老害 企業や政財界の指導者層の高齢化により、現状に即応した態勢がとれなかったり若い人の活動がはばまれたりする状態。」

©️文藝春秋

「老害」は、八版で出てくるのかな、と思ったのですが、もう六版で出ていたのですね。わたしの調べ方が悪かったです。新解さん、すみませんでした。次からちゃんとします。

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。

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