文春オンライン
溝端淳平「脚本を読んで“ちょっと困ったな”と思った」 時代劇に初挑戦して感じた“悩み”

溝端淳平「脚本を読んで“ちょっと困ったな”と思った」 時代劇に初挑戦して感じた“悩み”

2021/01/08

source : オール讀物 2017年2月号

genre : エンタメ, 芸能, テレビ・ラジオ

note

主人公「立花登」を掴めた瞬間

 そんな中で転換点になったのは「女牢」(2016年5月27日放送)でした。このシリーズでは基本的に、登が自分自身のために周囲を振り回すようなことはありません。でも「女牢」では、1人の女囚への思いから、登が自分の感情に突き動かされて行動を起こすんです。

 

 ある日、見覚えのある女が牢に入れられてくる。その女囚はかつて、ほんの一時ではあるものの、胸がときめくような思いを抱いた相手・おしのだった。彼女は夫を刺し殺した罪で処刑されることが決まっているのだけど、その前に一度だけ、登に抱いてほしいという。そして処刑の前日、登は請われるまま、牢の中で彼女を抱く――凄絶な話ですよね。そして、おしのの処刑の後、登は、夫とともにおしのに酷い仕打ちをした金貸し・能登屋を呼び出し、彼に復讐します。

 登はきっと、僕の経験からでは決して計り知れないような気持ちを抱えていたはずです。牢の中で抱いたとき、処刑場に入るおしのを見送ったとき、おしのが最後に振り返って笑顔を見せたとき、そして、能登屋を投げ飛ばしたとき、登は一体どんな気持ちだったのか……。どういう芝居をするかは事前にも考えていくのですが、最終的には現場で感じたことが一番正しいと思っているんです。この話では僕もかなり力が入っていて、監督やカメラマンさんといろいろ話し合いながら、演技を模索しましたね。

ADVERTISEMENT

 

 特に、能登屋に復讐するアクションシーンでは、一度OKが出たんですが、モニターで見てどうしても納得がいかなくて、やり直しをお願いしました。原作では、殴りかかってきた能登屋を投げ飛ばし、後も見ずに歩いていくのですが、ドラマではそういうわけにもいきません。投げ飛ばした能登屋に馬乗りになって、顔を殴るかどうしようか、となったのですが、最終的には、顔の横の地面を拳が血塗れになるまで殴り続ける、という芝居にさせてもらいました。そして、登が土砂降りの雨の中に立っているシーンで終るのですが、雨の中で、復讐しても晴れることのない悲しさを感じたときに、登という人物を掴めたような気がしました。

 京都での撮影も『立花登』で初めて経験しました。松竹撮影所と東映京都撮影所の両方を使わせていただき、スタッフも混成チームだったのですが、松竹と東映と、それぞれやり方が違うんです。その両方を知れたのも貴重な経験になりましたね。